研究課題/領域番号 |
16K09470
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪国際がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
岡 亨 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪国際がんセンター(研究所), その他部局等, 検診部・成人病ドック科 副部長 (10332678)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 腫瘍循環器学 / 心筋ストレイン / 心筋バイオマーカ / がん治療関連心機能障害 |
研究実績の概要 |
がん治療関連心機能障害(CTRCD)に関して、心機能障害が潜在的である段階で検出する指標について心機能および心筋バイオマーカーであるBNP、トロポニンI(TnI)の関連性について、血液腫瘍の造血幹細胞移植前後での検討を行った。血液腫瘍に対する造血幹細胞移植には移植前に集中した化学療法と全身の放射線照射が行われ、心臓への負担も大きく、腫瘍循環器医による介入が必要となる。心機能障害の早期検出は早期治療介入に結びつくため重要であり、今回、心毒性の早期発見に有効という報告がある左室心筋ストレイン(global longitudinal strain, GLS)に着目し、心機能およびGLS、心筋バイオマーカーの関係について解析した。対象は2017年から2018年に当センターで血液腫瘍(急性白血病、慢性白血病、悪性リンパ腫など)に対して造血幹細胞移植を施行した31症例について患者背景、造血幹細胞移植前と移植1ヶ月後の心エコー図検査データ、BNP、TnIを分析した。アントラサイクリン抗がん剤の平均累積投与量は179.4±114.7 mg/m2、全身放射線照射は26例に施行されていた。心エコー検査による左室駆出率(LVEF)は移植前63.6±5.5%、移植後1ヶ月64.7±4.6%と著変なかったが、GLSは移植前-19.3±0.7%から移植後1ヶ月-18.8±0.8%と有意な低下を認めた。BNP(移植前14.9±13.4 pg/ml、移植後1ヶ月68.1±96.8 pg/ml)、TnI(移植前0.010±0.002 ng/ml、移植後1ヶ月0.016±0.014 ng/ml)といずれも有意に上昇していたが、GLSの変化率とTnIの変化率には相関は認められなかった。これらの結果から、造血幹細胞移植前後において、LVEFに変化が認められない早期からGLSは低下を示すことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
腫瘍循環器データベースより、その治療が心臓への大きな負担となると考えられる血液疾患を抽出し、がん治療関連心機能障害(CTRCD)における心機能と心筋バイオマーカーBNP、トロポニンI(TnI)の関連性について解析し、抗がん剤によるCTRCDの早期検出について心機能の一つの指標として注目されているGLSについてその可能性を示すことが出来た。この結果は国際会議であるGlobal Cardio-oncology summit 2018でポスター発表し、国内では第1回日本腫瘍循環器学会学術集会、第83回日本循環器学会学術集会、第22回日本心不全学会学術集会でも発表することができた。現在、本研究を論文化している。
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今後の研究の推進方策 |
今回は、GLSの低下とTnIやBNPの変化に相関は認められなかったが、GLSが潜在的な心機能障害を検出している可能性があり、引き続きこれらの患者の心機能(LVEF、GLS)、心筋バイオマーカー(BNP、TnI)をさらに追跡し、GLSの心機能低下の予後予測因子である可能性について引き続き検討している。 さらに、腫瘍循環器データベースから抽出した症例、あるいは症例群について同様の検討を行っていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
データベース構築のための臨床データの集積と解析、その解析結果の発表を中心に進めているため、次年度使用額が生じた。 今後、これらの臨床データに基づいて実際のがん治療に近いがん治療モデルを構築して、抗がん剤による心毒性に関する基礎的な研究(心毒性、つまりは心機能や血管機能、発現遺伝子などの解析)を行うが、そのがん治療モデルとしての動物あるいは細胞の実験系を確立することに難渋しており、その研究に使用する計画である。
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