研究実績の概要 |
がん治療の進歩によりがん患者の予後が改善しているが、同時にがん治療による心血管系の副作用(心毒性)は治療の大きな支障となり、腫瘍循環器医による専門的な介入が必要となっている。しかし、我が国の化学療法や分子標的薬による心毒性の発現についてのデータは不足している。本研究は大阪国際がんセンター腫瘍循環器科における患者データを元に、がん治療による心血管系への影響を解析することであり、本年度は、EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん患者におけるEGFRチロシンキナーゼ阻害薬オシメルチニブによる心血管有害事象を認めた6症例(4.9%)の臨床像を解析し、さらに、オシメルチニブ投与を受けた非小細胞肺がん患者の心機能を経時的に解析した。オシメルチニブ投与後に生じた心血管有害事象は、心筋梗塞1例、心機能低下3症例、弁膜症悪化2症例であった。オシメルチニブ投与前後で心エコーで心機能が評価できた36症例では、オシメルチニブ投与後に有意に心機能低下が認められた。心機能が低下した2症例で実施した心筋生検では、細胞死やアクティブな炎症は認められず、オシメルチニブが収縮機能に抑制的に作用している可能性が示唆された。 この研究は米国医学雑誌、Journal of American College of Cardiology: CardioOncology 2(1):1-10, 2020. (Kunimasa, K, Kamada R, Oka T, et al.)に掲載され、米国ワシントンDCで開催された2020 Advancing Cardiovascular Care of the Oncology patientでポスター発表した。また、昨年度の造血幹細胞移植前後における心筋ストレインの研究は欧州心臓病学会総会(2020年8月パリ)でポスター発表した。
|