研究実績の概要 |
本研究では、Apolipoprotein E(ApoE)・Senescence Marker Protein-30(SMP30)両欠損マウスを用いて、腹部大動脈瘤形成におけるSMP30の役割を分子生物学的に明らかにし、SMP30を標的とした新しい治療法の開発を目指すことを目的とした。腹部大動脈瘤を作成するため、野生型マウス(WT)、SMP30欠損マウス(SMP30-KO)、ApoE欠損マウス(ApoE-KO)、SMP30・ApoE両欠損マウス(DKO)に対し、生食(sham群)またはAngiotensinⅡ(AngⅡ群)を投与した。AngⅡ投与28日後に大動脈を摘出し、腹部大動脈最大径を測定したところ、WTと比較してApoE-KOでは最大径が拡大し、DKOではさらに最大径が増大する傾向となった。しかし、SMP30-KOでは腹部大動脈に影響は認めず、死亡率についても最大径と同様の結果であった。腹部大動脈瘤の病理組織は、中膜弾性線維層が菲薄化する傾向にあり、瘤化した部位に線維芽細胞の集簇および炎症細胞の浸潤を認めた。ApoE-KOの大動脈組織において、mRNAの発現を定量RT-PCRにて測定したところ、MCP-1、IL-6、IL-1β、TNFの発現が亢進しており、DKOにおいてはApoE-KOに比してより増加していた。一方、SMP30-KOではこれらの発現亢進は認められなかった。また、MMP-9の発現はAngⅡ投与にて増加したが、WTに比してApoE-KO, SMP-KO, DKOいずれにおいても有意な変化は認められなかった。結論として、SMP30はAngIIのpro-inflammatoryな作用に拮抗することにより大動脈瘤形成を抑制していることが示唆された。一方、SMP30-KOによる表現型は明らかでなく、今後より詳細な細胞内メカニズムの解明が必要である。
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