研究課題
本研究の目的は1)マルチモダリティー血管内イメージングを用いて冠動脈破綻像の3次元データを収集すること、2)そのデータから独創的な数理モデルに基づいて、粥腫破綻周囲の血液の流体力学的振る舞いを再現しACSを発症したものとそうでないものを比較検討してACSを発症する破綻の決定因子を解明すること、3)ACSを発症しやすいプラークを破綻前に同定する方法を提唱し、冠動脈疾患の2次予防に役立てることにある、の3つを掲げているが、H28年度はその1年目として、実際に破綻した粥腫の力学的構造や組織性状の実データをIVUSやOCTなどの複数の血管内イメージングで多数収集し、その3次元立体構成を行って、破綻という力学的プロセスを詳細に解明するとともに、ACSを発症したものとそうでないものとを区別する効果的な新奇の鑑別分類法を発見し、新しいACS易発症性プラークを同定できる生体イメージング解析技術開発のための基礎検討を開始した。そして、当初の計画通り、1)血管内エコー法(IVUS)装置(現有)、血管内光干渉断層図法装置(OCT)装置(現有)等から詳細な解析を行うための画像信号取り出しを定量的に可能とするシステムを構築し、2)あらかじめ同意をとった心臓カテーテルを行う患者の冠動脈の破綻粥腫や未破綻粥腫を血管内イメージングで描出し、その3次元データを収集する。3)(2)のデータを用いて流体力学的解析を行いえるようなソフトの整備、の3つを行った。その結果、ACSを発症した群とACSを発症していない群の2群から相当数のプラーク破綻に関するデータを収集し、またソフトの整備を行うことで、プラーク破綻の3次元データを入力すれば、その周りでの血流速度分布が粒子法で表現できるようにした。
2: おおむね順調に進展している
本研究の進捗状況としては、概ね順調に進行していると思われる。データ収集面では、ACSを発症した群とACSを発症していない群の2群から適度なデータ数が収集されている( ACS群:24症例、 non-ACS群:21症例)。それは、データ収集方法として、血管内エコー法(IVUS)装置(現有)から詳細な解析を行うための画像信号取り出しを定量的に可能とするシステムを構築することは可能となり、またあらかじめ同意をとった心臓カテーテルを行う患者の冠動脈の破綻粥腫を血管内イメージングで描出し、その3次元データを収集することが可能となったからである。次にその3次元データを入力し、プラークの破綻周りの空間における血流速度分布をシミュレーションできるようなデータの流れをつくることにも成功した。その方法には、当初の計画通り、粒子法を用いた。従来の流体力学的解析ソフトは差分法、有限要素法に代表される格子法が用いられてきたが、それらの方法では、メッシュと呼ばれる計算格子を用いるがそのためには、膨大な計算コストと時間がかかる。しかし、粒子法は、格子を用いずに流体を粒子に分割してモデル化するため、粒子は分子や液滴そのものではなく、流動とともに移動する計算点として扱われ、計算コストや時間が大幅に削減され、動的かつビジュアルに血流の挙動を表現できる。現在収集した全症例のデータをこのソフトに移行することにほぼ整備し、次年度でそのデータを用いて多角的に解析を行うことができるまでになっている。以上のように、当初の予定通りに進行しており、概ね順調に進行していると判断した。
今後の研究の推進方策としては、当初の計画どおり、以下のように行っていく予定である。平成28年度の研究成果を踏まえて、冠動脈の粥腫の破綻後における3次元空間的組織性状データより、ACS発症のキーとなる立体幾何学的因子を割り出し、ACSが発症しやすい破綻とそうではない破綻を効率的に分類する手法を確立し、新しい流体数理モデルである粒子法的流体力学的シミュレーションにより整合性を検証し、最終的に破綻する前の組織性状からACSを発症しやすいプラークを推定ないし同定できる手法の開発を行う。そのために、以下の3点について研究を行う。1)3次元空間情報を簡便な数値で表現することは概して困難であるが、その中で一定の特性に注目し、臨床上ACS発症予測が可能な定量的指標を見つけ出すことが肝要である。3次元立体の定量的解析法には、形状関数に対するフラクタル解析、ゆらぎ解析ならびにカオス解析があり、さらにウェーブレット解析やフーリエ解析などがあり、これらを包括的に用いてACSを発症しやすい形状を数量分類学的に発見していく。2)本研究でえられた冠動脈粥腫の3次元破綻像の空間情報を基礎として、新しい数理モデルである流体力学シミュレーションを行い、血栓形成に必要な血流の淀みがいかに生成されるかを再現したのち、(1)で行った分類法の妥当性を検証していく。3)最終的に、破綻する前の組織性状から、破綻したあとの空間形状をどれだけ推定できるかを検証し、破綻前にACS易発症性粥腫の同定が可能にするための前向き試験を行う基礎を作り、ACSの発症予防や治療法開発への方向性を定めていく。それぞれの実現可能性については研究の性質上まだ不確定の部分があるが、上記の3つすべてが実現可能となるために、本年度は深い洞察や考察と工夫が要求されると考える。
本年度は、研究費は研究を遂行するための新たなPCソフトを購入した。時代の流れにより、必要額が変化し、予想額よりも廉価となった。そのため一定の残額が発生したが、研究遂行も実施概要に述べたように、概ね順調に進んではいるものの、今後の研究用のデータ解析ソフトやPC環境の充実には残額を次年度に繰り越して使用しなければならない状況になっており、次年度使用額が生じた次第である。
次年度は、今後の推進方策で述べたように、収集したデータをあらゆる角度から分析し、研究を推進していかねばならないわけであるが、そのために必要なPC部品やソフトを購入・充填し、ならびに国際学会出席のための旅費等に当てる予定である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件)
Journal of the American Heart Association
巻: 5 ページ: e002779
10.1161/JAHA.115.002779.