研究課題/領域番号 |
16K09483
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研究機関 | 大阪医科大学 |
研究代表者 |
石坂 信和 大阪医科大学, 医学部, 教授 (20270879)
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研究分担者 |
勝間田 敬弘 大阪医科大学, 医学部, 教授 (60224474)
寺崎 文生 大阪医科大学, 医学部, 教授 (20236988)
神崎 裕美子 大阪医科大学, 医学部, 講師 (80445999)
藤田 修一 大阪医科大学, 医学部, 助教 (80722628)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | IgG4関連疾患 / 炎症性大動脈瘤 / 炎症性動脈周囲炎 / 炎症性心膜炎 / 大動脈弁狭窄症 / 大動脈瘤 |
研究実績の概要 |
本科研費においては、心血管領域におけるIgG4関連疾患に対して適切な診断治療を行うために、いくつかのアプローチにより、包括的な検討を試みている。膵疾患においてはIgG4関連疾患である自己免疫性膵炎の診断にあたり、血清IgG4高値は、感度、特異度ともに90%を超えている。「循環器疾患を有する症例に対する、血清IgG4の網羅的測定」では、循環器内科入院症例や、CTによる冠動脈評価を行った600例超の症例を対象に、網羅的な血清IgG4測定を行い、IgG4高値は、約4-5%に認められる、特異度の低い情報であることを明らかにし、日本脈管学会総会での発表と、脈管学会誌への投稿(採択)を行った。 心血管は、生検による組織学的な検討が困難な部位である。「さまざまな心血管疾患の手術標本に対する網羅的なIgG4染色」では、手術により得られた組織標本に対して、網羅的なIgG4染色を行い、IgG4陽性形質細胞浸潤がどのような疾患、病態で存在するかを検討した。その結果、程度の軽度なものも含めると、大動脈弁狭窄症と大動脈瘤の症例の約2割にIgG4陽性の形質細胞浸潤を認めることが明らかになり、論文により報告した(BMC Cardiovasc Disord)。 これらの知見は、心血管におけるIgG4関連疾患の診断のために、他の臓器の診断とは異なる基準をセットアップする必要を示唆している。そのため、他の臓器においてIgG4関連疾患と診断され、それに動脈周囲炎や後腹膜線維症を合併してきた症例について、他領域の専門医から、厚労省の班会議などを通じて症例を集積して、臨床像や画像や臨床検査上の特徴などについて解析を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
循環器症例の血清IgG4の測定や、心臓血管病に対する手術サンプルのIgG4染色については、サンプルのセットアップが順調に進み、また、測定や染色の結果も得られており、血清IgG4高値の陽性的中度の低さや、大動脈弁狭窄症におけるIgG4陽性細胞浸潤など、新規知見を得られ、それにより、学会報告、および論文発表にこぎつけることができた。これらの課題については、順調に進められたと考えている。 消化器、呼吸器、眼科、腎臓など、他臓器のサブスペシャルティで、かつ、IgG4関連疾患の分野におけるエキスパートの先生方により、IgG4関連疾患と診断され、また、動脈病変が合併している、と判断された症例については、99症例を集積することができた。この、99例については、血管(周囲)組織などの病理学的検討の存在するものや、存在しないものなど、エキスパートが診断に至った経緯により分類し、臨床像や、病態の特徴について論文作成を開始した。多施設から集められた99例の中には、包括診断基準ではIgG4関連の動脈病変とは診断できないものや、病理学的な検討を欠いているものも存在しており、現状では、包括基準による診断と、エキスパートによる診断には隔たりがあることが確認された。IgG4関連疾患が2015年7月に難病指定されたことを考慮すると、この点をとっても、今後、IgG4関連の動脈疾患などについても、診断の指針の策定が必要であることが改めて認識された。この点については、多施設、多分野の研究者との密接な連携の元の作業になるため、調整事案が多く存在するが、診断指針の策定のための情報収集は、おおむね順調に進んだと判断している。
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今後の研究の推進方策 |
多施設のさまざまな診療領域の研究者と、IgG4関連の動脈周囲炎について、その特徴や、エキスパートによる診断の経緯についてデータを収集し、解析してきたことは、上述した。これにより、IgG4関連疾患の心血管表現型の特徴は明らかになりつつあり、次のステップとして、本研究の目標の一つである、IgG4関連の動脈周囲炎の診断指針策定に進んでいく予定である。そのためには、IgG4関連疾患に特徴的と考えられるパラメータが、心血管疾患全体からみた場合、どの程度特異度の高い所見であるかについて、心血管病分野の診療医サイドから検証する必要がある。 申請者は、日本循環器学会の学術委員会において、IgG4関連疾患研究班と、日本循環器学会から推薦される循環器や心血管病の専門医でチームを形成し、診断指針策定のための合同ワーキンググループ(WG)を立ち上げることの承認をいただいた。今年度は、メンバーの最終調整と、合同WGによるディスカッションを通じた指針作りに向かう作業を進めていきたいと考えている。 また、今後も、心臓血管病で手術が行われた症例の、手術サンプルを用いた免疫組織学的な解析を継続し、検討症例数を増やすとともに、心血管組織中にIgG4陽性細胞浸潤を認める症例の臨床像や臨床経過についての特徴について、より詳細な解析を行い、指針策定に有用なデータとしていきたいと考えている。 合同WGで合意される診断指針について、学会等を通じて公知のものとしていくことが重要であると考えているが、一方で、疾患の希少性を考えると、将来的には、診断指針がどのようなものに策定されても、再考がもとめられる可能性がある。IgG4関連心血管病変の経過をフォローできるような、レジストリー登録システム作成についても、WG組織をもとに考えていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
IgG4プレパラート染色、検体のIgG4測定に使用予定である。昨年度に、心臓血管外科手術が行われたすべての症例に対しての検討を行い、特定の疾患において、対象サンプル数を増加して(=対象年度を拡大して)、より詳細な検討を行うこととなった。現在、組織学的検討を行うため、未染の薄切切片を準備中であるが、対象サンプル数が多いため、免疫組織学的な検討が未施行である。そのため、次年度へのキャリーオーバーが生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
未染切片が完備し次第、追加の染色工程にはいるとともに、当初予定されていた使途である発表や公表のためにも、科研費を使用させていただく予定である。 未染切片が完備し次第、染色工程に入る。
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