研究課題
肺高血圧症(pulmonary hypertension: PH)は,肺小細動脈の血管内腔が狭小化・閉塞することにより肺動脈圧が上昇し,右心不全に至る難治性疾患である.これまでに複数のPH治療薬が開発されているものの,いまだ予後不良である.肺小細動脈の狭小化・閉塞を引き起こす肺血管リモデリングの本態は,肺動脈平滑筋細胞(PASMC: pulmonary artery smooth muscle cells)の異常増殖と考えられているが,その詳細な発症機構は明らかにされていない.特に,他の血管疾患の進展に重要と考えられている,メカノストレスのPH病態への影響はほとんど検討されていない.そこで本研究では,メカノストレスに着目して,PHの病態進展に重要なPASMCの増殖を制御する分子機構を解明することを目的として,以下の検討を行った.①PH症例の肺動脈内の血流速を実測し,実際のずり応力を算出し,血管が受けているメカノストレス強度を算出した.この値を,本研究で負荷する至適メカノストレスとした.②ポリジメチルシロキサンを用いた流路を使用した微小血管モデル流路に,PH症例から単離・培養したPH症例由来PASMCを播種した1層の血管モデルと,PH症例由来PASMCに内皮細胞を積層する2層培養状態の細胞を流路内に組み込んだ,送液可能な血管モデルの作成に成功した.これらの血管モデルに対して,上記①で算出したメカノストレスを加え,細胞の形態や増殖能や細胞内シグナルへの影響を観察した.③作成した血管モデルにメカノストレスを加えて,PHの病態進展やメカノストレス応答を制御する可能性のある候補分子の抽出を行った.
2: おおむね順調に進展している
初年度に作成した,PASMCと内皮細胞を組み合わせた2層構造からなる血管モデルを用いて,ずり応力を負荷して様々な検討を行った.ずり応力の程度を変更してさまざまな強さのずり応力を加えた細胞を用いて,細胞の形態変化,細胞内シグナル伝達系の分子の発現量や活性化状態,細胞増殖能などを,免疫染色やRT-PCR法などを用いて評価した.これにより,シアストレスの程度や細胞増殖能がずり応力依存性に亢進することが明らかとなった.また,静置細胞と送液負荷細胞からそれぞれmRNAを抽出し,GeneChip解析を行い,PH病態の進展やメカノストレス応答を制御する可能性のある候補分子の抽出を行った.
平成30年度は,初年度に開発し特許出願した,PH症例由来PASMCに内皮細胞を積層する2層構造からなる血管モデルを用いて,メカノストレスの影響を受ける分子の制御による治療効果の検討を行う.まず,これまでに肺高血圧症に対して有効性の示されている薬剤を使用し,細胞の形態の変化や,肺高血圧症の病態進展に寄与する細胞増殖能の変化,メカノストレス応答分子機構の変化などを制御することが可能かどうか,について免疫染色やRT-PCR法を用いて検討する.さらに,昨年度行ったGeneChip解析の結果から見出されたメカノストレス応答分子を標的とした薬剤やsiRNA等を使用することにより,候補分子が,病態の悪化を制御しうる新たな治療薬の候補となりうるか,について上記と同様の指標を用いて検討する.
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 4件、 招待講演 3件)
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