研究課題
①細胞内カルシウム動態ならびに血管トーヌスに関与しているAKAP79/150蛋白のノックアウト(AKAP-KO)マウスの大動脈平滑筋細胞を用いて、カルシウム感受性関連物質であるカルモジュリンキナーゼII(CaMKII)の遺伝子ならびに蛋白発現を検討したところ、野生型マウスと比較して、CaMKIIの遺伝子ならびに蛋白発現はともに約2倍増加していた。そのメカニズムとして、ある種のmicroRNAがCaMKII活性に影響を及ぼしていることが示唆された(Nishizaki, Tomita、2016 AHA発表、2017日本循環器学会学術集会発表)。②カルシウム感受性亢進を抑制するカルベジロールとカルシウム感受性抑制作用を有さないβ遮断薬であるプロプラノロールをAKAP-KOマウスに投与し冠攣縮を誘発したところ、カルベジロール投与下では冠攣縮は抑制されたが、プロプラノロール投与下では抑制されなかった(Narita, Tomita、2017 AHA発表)。カルベジロールはCaMKIIを抑制すると報告されており、現在そのメカニズムを検討中である。③冠攣縮性狭心症患者62名ならびにコントロール群64名より得られたゲノムDNAを使用し、AKAP5の遺伝子変異を検討した。冠攣縮性狭心症患者7名ならびにコントロール群5名に203番目のアミノ酸置換を伴うヘテロ遺伝子変異(イソロイシン→スレオニン)を認めた。さらにコントロール群1名では、同部位のアミノ酸置換を伴うホモ遺伝子変異を認めた。遺伝子変異を伴う冠攣縮性狭心症患者では71%(7名中5名)に多枝冠攣縮を認めたが、遺伝子変異を伴なわない冠攣縮性狭心症患者では51%(55名中28名)に認めるのみであった。
2: おおむね順調に進展している
交付申請書に記載された平成28年度ならびに平成29年度の研究計画がおおむね実行され、冠攣縮における細胞内カルシウムシグナル伝達機構の解明に向けて、非常に興味深い結果が得られており、上記区分(2)に該当すると思われる。
交付申請書の研究計画に沿った実験をすすめていく。AKAP-KOマウスで見出されたカルシウム感受性亢進を介する新しい冠攣縮のメカニズムについて、その機序解明をすすめる。治療に関しては、カルシウム感受性亢進を抑制するとされるカルベジロールの冠攣縮抑制効果について検討し、そのメカニズムの解明をすすめる。
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