研究課題/領域番号 |
16K09494
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
笹野 哲郎 東京医科歯科大学, 大学院保健衛生学研究科, 准教授 (00466898)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 心房細動 / マイクロRNA / 心房リモデリング / cell-free DNA / バイオマーカー |
研究実績の概要 |
心房細動の病態を解明するため、前年度に引き続きマイクロRNAの関与・pannexinの関与に着目して研究を行い、特にバイオマーカーとしての血中マイクロRNAの応用を検討した。さらに付加的な研究として、心房細動における血中遊離DNA(cell-free DNA)の関与についての検討を行った。 今までの研究において確立した心房性不整脈のマウスモデル(横行大動脈縮窄モデル・高脂肪食負荷モデル)から得た心房組織中のマイクロRNA発現変化と、心房細動患者および健常者の血清中のマイクロRNA発現変化をそれぞれ網羅的に解析し、どちらの検討でも発現変化が見られたマイクロRNAを抽出し、さらによりについてそれぞれ網羅的解析を行い、その後個別の発現量解析によって新たな4つのマイクロRNAを同定した。今後各マイクロRNAの機能解析を行う予定である。さらにpannexinに関しては、心筋虚血および心臓圧負荷に対してpannexin-1が心保護的に作用していることを明らかにし、それぞれその詳細なメカニズムの解明を行っている。 また、心房細動では炎症性サイトカイン発現の増加・腎機能低下・血管内皮機能低下など、全身に様々な変化を合併することが知られている。全身の軽微な炎症はその根底にあると考えられるが、心房細動がなぜ全身の炎症を惹起するのか、そのメカニズムは完全には解明されていない。我々は、cell-free DNAに着目し、心房細動では血中のcell-free DNAが増加することを明らかにした。さらに心房筋細胞の細胞株であるHL-1細胞を電気刺激しても同様にcell-free DNAが放出されることや、このcell-free DNAが単球・マクロファージに作用して炎症性サイトカインの発現を誘導することなどを明らかにした。この点については今後も研究を続けていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1) 心房細動の病態に関与するマイクロRNAの同定と、バイオマーカーとしてのマイクロRNAの応用: 心房細動の発症及び慢性化に関与するメカニズムとして心房リモデリングが知られている。我々は心房リモデリングにおけるマイクロRNAの関与を検討するため、心房性不整脈が発生する高脂肪食負荷モデルマウスの解析を行い、miR-27bが心房リモデリングの進行に寄与することを明らかにした。さらに、別の心房性不整脈モデルである圧負荷モデルでも同様の網羅的解析を行い、心房細動の病態に共通して変化するマイクロRNAを同定した。 さらに心房細動のバイオマーカーとしての血中循環マイクロRNAに関する検討を行った。心房細動患者および健常者計15例の末梢血を採取し、733種のマイクロRNAに関して網羅的解析により発現変化を検討してバイオマーカーの候補マイクロRNAを同定した。さらに100例において候補マイクロRNA発現を定量的RT-PCRによって評価した。最終的に4種のマイクロRNAを同定し、これらを用いた診断パネルによって感度76%、特異度80%で心房細動の発症を予測しうることを明らかにした。 2) 心臓圧負荷に対するPannexin-1の作用: Pannexin-1ノックアウトマウスを用いて、心臓圧負荷について、左心系および右心系それぞれに特異的に負荷を加えて評価する実験系を確立した。 3) 新たなバイオマーカーとしてのcell-free DNA: 心房細動を模したモデルとしてマウス心房筋細胞株であるHL-1細胞を高頻度ペーシング刺激し、培地中のcell-free DNAを定量したところ、時間依存的にcell-free DNAが増加することを明らかにした。さらに、心房細動症例および健常者の血漿中cell-free DNAを定量したところ、心房細動患者では有意に濃度が上昇していた。
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今後の研究の推進方策 |
研究は概ね当初予定通りに進行しており、それに加えて新たに血中cell-free DNAに関しての検討で新知見が得られている。我々は今までに心房細動のメカニズムに関連することを明らかにした、細胞外ATP、血中マイクロRNAと合わせ、血中遊離ヌクレオチドによる細胞間コミュニケーションと心房細動の進展メカニズムについての検討を深化させる。
1) 心房細動のバイオマーカーとしてのマイクロRNAの臨床的有用性の検討: 昨年度同定した心房細動のバイオマーカーとなるマイクロRNAについて、ターゲット遺伝子の探索と、ターゲット遺伝子発現制御による病態解明を進める。また、バイオマーカーとしての有用性については、より多数例での検討を進める。 2) 心房細動と全身的合併症に関連する血中cell-free DNAの関与の検討: 心房細動とおいてcell-free DNAがどのように全身炎症を惹起するのか、さらにメカニズムを明らかにする。細胞には細胞核内のゲノムDNAと、ミトコンドリア内にある独自のミトコンドリアDNAが存在する。心房細動において炎症に関与するものがどちらのDNAか、また両者の違いなどについて詳細なメカニズムを検討していく予定である。 3) 心房細動の発症予測に関する統合オミックス解析への準備: 心房細動の発症を予測する因子として、心房細動に関連する遺伝子多型が知られている。本研究で我々は、血中マイクロRNAがバイオマーカーとして有用であることを明らかにし、さらに心房細動患者ではcell-free DNAが増加することを見いだした。これらのバイオマーカーに加え、特殊心電図解析による心房伝導障害の評価を統合して、心房細動の早期診断・発症前診断へと発展させて心房細動に対する先制医療へと結びつけるべく、多数例による統合オミックス解析への準備を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進捗に伴い、心房細動の進展メカニズムに関与しバイオマーカーとして使用しうる、cell-free DNAを新たに見いだした。血中循環マイクロRNAおよびcell-free DNAを統合的に評価することを新たに次年度の目標として追加し、マイクロRNAおよびcell-free DNA測定費用を新たに計上した。このため、本年度の支出を抑制して翌年度分として使用する計画とした。
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