研究課題
出生後早期以降に心筋細胞での発現が低下し、かつ、細胞増殖制御に関与する遺伝子群を成体での心筋細胞増殖制御関与の候補遺伝子として同定した。その一つCRP1の分子学的意義をin vitroで検討した。CRP1は心筋のストレス応答に重要なnuclear shuttling蛋白である muscle LIM protein (MLP) のファミリー遺伝子であり、アミノ酸配列で約70%の相同性を有する。MLPは遺伝子異常によりマウスおよびヒトで心筋症を来すことが報告されている。出生後早期以前ではCRP1がMLPと同時に発現することでMLPの作用に変化を与えているのではないかと考え、CRP1、MLPの分子機能および両者の違いを検討した。まずCRP1とMLPのH9C2細胞への過剰発現の結果、cell survivalにおいて両者での有意な差を見出した。さらにMLPの種々の点変異体ベクターについても作成、複数のベクター間で過剰発現系での検討を行い、(1) 核移行の異常、(2) 細胞質局在の増加、(3) cell toxicityに違いが見られることを見出した。CRP1とMLPは(2)と(3)の点で異なる分子機能を示すことを見出した。このことから、CRP1の共存によってMLPの作用が修飾されることにより、CRP1発現が異なる出生後早期以前とそれ以後の心筋細胞でストレス応答様式が異なる可能性が示唆され、これが増殖性の違いにも影響する可能性があると考えられる。MLPはサルコメアへの結合、多量体の形成を介して働くことが報告されていることから、今後、CRP1とMLPの結合蛋白や多量体形成での差異、増殖への関与等さらに分子機序の検討を進める。
2: おおむね順調に進展している
候補遺伝子の中から、出生後早期の心筋細胞形質に関して有意に細胞機能に影響する遺伝子を見出すことができ、その分子機序として同因子の細胞内動態やcell survivalでの変化を来すことを同定できた。増殖調節機構への関与を含め、さらに詳細なin vitroでの分子機序の検討は必要であるが、出生前後で心筋細胞に影響を及ぼす遺伝子とその作用点の概要をつかめたという点で、概ね良好に研究が進捗していると考えられる。
CRP1とMLPの細胞増殖制御における意義とその分子機序につきin vitro、in vivoにおいてさらに詳しく検討を進め、出生後早期以前と成体期での心筋細胞の増殖制御機構の違いを検討する。また、作成した点変異遺伝子の中には分子機能の変化が見られるものがあった。これらには心筋症を来すものも含まれるが、疾患発症に到る分子機序は未だ不明であることから、同変異によるCRP1, MLPの分子機能の変化についても検討し、その病因を検討する。また、他の候補遺伝子についても同様の検討を行い、細胞形質に対する影響を検討していく。
複数の候補遺伝子群を同定していたが、これらのうち分子機能解析で意義のあるかつ有意な変化を示すものを見出せる保証が研究開始当初はなかったため、多種の遺伝子での解析や網羅的解析の使用も検討していたが、現在のところ当該遺伝子において注目すべき結果を得ることができたため、他の候補遺伝子に使用予定であった試薬代や解析費用を若干抑えることができたため。
次年度の実験結果および研究の進行に合わせ、より発展的な実験系での試薬費用や解析費用に使用する。また、当該遺伝子に関して、遺伝子変異体の機能解析を追加する。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件)
Circulation Research
巻: 120 ページ: 835-847
10.1161/CIRCRESAHA.116.309528. Epub 2016 Dec 5
PLoS One
巻: 12 ページ: -
10.1371/journal.pone.0172798. eCollection 2017.