本研究では培養心筋細胞を用いた実験によりミトコンドリアでのATP産生活性を増強させる事が示されたG0s2に着目し、ATP産生増強による新規心不全治療法開発に向けた心筋エネルギー代謝調節機構解明を目的とした。 G0s2の生体内での機能を確認するために、ゼブラフィッシュを用いた実験を行った。心臓特異的プロモーターを用いた強制発現系(TG)と、TALENシステムを用いた遺伝子ノックアウト系(KO)を用いて検討した。TGフィッシュは低酸素刺激に対する耐性を示し、KOフィッシュは低酸素刺激による耐性が低下した。これらのことからG0s2は生体内においてもエネルギー飢餓状態に対して保護的に働くことが示された。機序を調べるためにATP感受性蛍光プローブをゼブラフィッシュ心臓に強制発現させ、ATP可視化ゼブラフィッシュを作成した。G0s2発現領域では低酸素下でもATP濃度が保持されており、ATP産生増強により心機能を改善させていることが示され、治療標的として有望であると考えられた(論文投稿準備中)。 G0s2をターゲットとした新規治療法開発に向けてG0s2発現を増強させる化合物のスクリーニングを行った。培養心筋細胞のATP合成活性を増強し、虚血に対する細胞死に耐性を示すヒット化合物の同定を行った。今後更に生体での効果を確認する予定としている。 また臨床応用を念頭にヒト心不全の予後とミトコンドリア機能との関連について検討した。ミトコンドリア機能を反映するTc-MIBI心筋シンチ洗い出し率(WR)とベーター遮断薬等の内服治療による左室リバースリモデリング(LVRR)の有無とを検討したところ、LVRRを認めない例は洗い出し率が亢進していることが判明した。つまりミトコンドリア機能は治療反応性との関連が示され、ミトコンドリア機能を治療ターゲットとすることの妥当性を支持するものと考えられた。
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