研究課題/領域番号 |
16K09510
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
荷見 映理子 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (70599547)
|
研究分担者 |
藤生 克仁 東京大学, 医学部附属病院, 特任助教 (30422306)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 肥満 / インスリン抵抗性 / 糖尿病 / 冠動脈疾患 / S100A8蛋白 |
研究実績の概要 |
本研究はメタボリックシンドローム及び心血管疾患におけるS100A8の機能を明確にし、さらにはS100A8が組織炎症を惹起する分子機構、S100A8を介するシグナルを明らかにすることで新規治療を開発することを目的としている。 我々が作成した脂肪細胞特異的S100A8ノックアウトマウスを用いて、高脂肪食負荷を行い、野生型マウスと比較してインスリン抵抗性に差が認められた。また、両者の脂肪組織から採取した非成熟脂肪細胞分画のFACAS解析を行ったところ、M2マクロファージ数に有意差が認められた。これらの結果から、脂肪細胞から分泌されるS100A8蛋白が脂肪組織の炎症を制御し、インスリン抵抗性に関与している可能性が示唆された。さらに、ノックアウトマウスと野生型マウスの脂肪組織から単離した脂肪細胞からRNAを抽出し、RNA sequenceを行ったところ、S100A8のシグナル下流に位置すると考えられる因子が同定された。この因子は脂肪細胞の分化に関する因子として報告されており、S100A8が脂肪細胞の分化を制御することでも、インスリン抵抗性に関与する可能性も示された。そこで、中和抗体を用いて、S100A8の脂肪細胞やマクロファージへのシグナルに対する介入を行うことで、脂肪組織炎症や脂肪細胞分化を抑制し、インスリン抵抗性への進展を抑制できる新規糖尿病治療となりうる可能性が示唆された。 我々は、脂肪細胞特異的S100A8ノックアウトマウスの作成・繁殖に成功し、その脂 肪組織での表現型を明らかにした。また、ノックアウトマウスの脂肪組織の解析をRNAの発現やファックス解析等行うことで、S100A8の脂肪細胞やマクロファージへのシグナルに関与する因子を同定することができた。また、ノックアウトマウスのインスリン抵抗性が改善することが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に挙げていた、脂肪細胞特異的S100A8ノックアウトマウスの表現型を明らかにした。また、S100A8のマクロファージへの作用や、炎症促進性遺伝子群の発現を制御するシグナル経路についてさらに解析を行った。さらに、マウスの大動脈縮窄モデルを用いて圧負荷心への応答も検討しており、S100A8がシグナル伝達に重要な役割を果たしていることを明らかにした。
|
今後の研究の推進方策 |
1.S100a8遺伝子を脂肪細胞で特異的に発現するトランスジェニック(Tg)マウスで高脂肪食を食餌させたTgマウスの脂肪組織を野生型マウスと比較すると、TgマウスではM1マクロファージの集積低下と炎症性サイトカインの発現(MCP-1)が低下した。肥満によりS100a8 が脂肪組織にマクロファージの遊走を促すものの、炎症反応は改善が見られた。また、脂肪細胞特異的S100a8ノックアウトマウスの高脂肪食負荷で脂肪組織でのM1マクロファージが野生型と比較して増加していること、マクロファージの炎症性サイトカイン(IL-1β、TNF-α)の抑制されることを確認した。さらには、インスリン抵抗性の改善も認めた。このことから、S100A8蛋白は脂肪組織炎症の保護的に作用し、これによりインスリン抵抗性改善させる可能性が示された。一方で、我々は総頸動脈結紮モデルで、新生内膜と外膜にS100a8が高発現していることを見出しており、S100A8が脂肪組織だけではなく、血管でも組織炎症に寄与し、動脈硬化疾患に関与する可能性を有すことを示唆している。そこで、今後はマクロファージ・血管内皮特異的S100a8ノックアウトマウスを用いて、血管傷害への応答や動脈硬化へのS100a8蛋白の寄与を解析進めていくこととしている。また、最近では心不全の予後と血中S100a8濃度の関係も報告されており、大動脈縮窄モデルを用いて圧負荷心への応答も検討する予定としている。 2.脂肪組織炎症において脂肪細胞でS100a8の発現を誘導する刺激の分子の探索を行っており、すでに脂肪細胞とマクロファージの共培養で遊離脂肪酸やサイトカイン刺激が脂肪細胞からのS100a8の発現を上昇させることを予備実験で明らかとしている。さらにS100a8の発現を制御するシグナル経路の解析をすすめ、特に、マクロファージでのS100a8受容体の同定を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
S100A8蛋白の脂肪組織での機能を解析するために必要とされている、adipo-Cre:S100A8(flx/flx),Tie2-Cre:S100A8(flx/flx)の2種類のノックアウトマウスを実験のために育成している。これらのマウスの繁殖に時間を要しており、十分な頭数が育成が来年度になる見込みである。適宜、繁殖の経費を支払う予定である。
|
次年度使用額の使用計画 |
上記、ノックアウトマウスの繁殖費用と脂肪組織・心血管組織のファックス、シークエンス解析などに使用予定である。
|