研究課題/領域番号 |
16K09512
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
大橋 浩二 名古屋大学, 医学系研究科, 寄附講座講師 (10595515)
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研究分担者 |
大内 乗有 名古屋大学, 医学系研究科, 寄附講座教授 (00595514)
室原 豊明 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (90299503)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 血管リモデリング / 抗炎症作用 / 平滑筋細胞増殖抑制作用 |
研究実績の概要 |
アディポリン(APL)は新規のアディポサイトカインであり、これまでインスリン抵抗性改善作用について我々や他のグループから報告されているが、血管病に対する作用は明らかではない。本研究ではアディポリンの病的血管リモデリングと動脈硬化に対する作用を検討している。APL欠損マウス(APL-KO)はベーサル状態で 体重、臓器重量、糖脂質パラメーターは、野生型マウス(WT)と差を認めなかった。8~10週齢のAPL-KOとWTの大腿動脈にワイヤー挿入し血管傷害モデルを作製した。術後3週間目に解剖し傷害血管壁の新生内膜面積を評価したところ、内膜/中膜面積比はAPL-KOはWTと比較して有意に増加していた。傷害血管壁において、APL-KOは新生内膜においてBrdU陽性の増殖細胞が多く、傷害血管壁における炎症メディエーターの発現もWTと比較して高値であった。培養血管平滑筋細胞では増殖因子誘 導性の平滑筋細胞増殖をAPL蛋白の添加により抑制した。また培養マクロファージにおいても炎症惹起物質によ る炎症性メディエーターの増加もAPL蛋白により抑制された。シグナルに関しては、TGFβ受容体II/Smad2シグナリングの関与を示唆する実験結果が得られている。さらにAPL-KOと動脈硬化モデルのApoE欠損マウスとの交配によるAPL/ApoE-DKOマウスを作成し、動脈硬化におけるAPLの作用も検討したところ、APL/ApoE-DKOマウスはApoE単独欠損マウスと比較し、動脈硬化巣面積が有意に増加しており、全身にAPLを投与すると、病的血管リモデリング、動脈硬化とも有意に抑制されることが明らかとなった。以上よりAPLは病的血管リモデリングと動脈硬化に対して、各血管構成細胞に直接作用して、その保護作用を発揮することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の実験計画通り、遺伝子改変マウスの作製は終了しており、心血管病モデルとしての病的血管リモデリングにおけるAPLの作用に ついてもほぼ解析は終了している。さらにHEK293F細胞を用いてリコンビナントAPL蛋白を分泌する安定株の作製も終了しており、APL 蛋白の精製も完了している。このリコンビナント蛋白を用いて、各血管構成細胞においてAPLの作用の検討も進行しており、多くの血 管保護作用を見出している。シグナルに関してもTGFβRII/Smad2シグナリングを介して抗炎症作用、平滑筋細胞増殖抑制作用を発揮することも見出している。当初の計画ではここまでで最終年度の目標で会ったが、2年目でほぼ完了しており、今後はAPLによる心血管保護作用のさらに詳細な解明のため、APLとTGFβRIIとの結合についても検討していく。さらにTGFβRII flox/floxマウスの凍結胚を海外から授与して頂き、既に凍結胚からの産仔の作製も開始している。これによりin vivoにおいてもAPLがTGFβRIIを介して血管保護作用を発揮するかを検討する予定である。まずはマクロファージ特異的マーカーであるLysMをプロモーターとしたCreマウスとTGFβRII flox/floxマウスを交配することにより、マクロファージ特異的TGFβRII欠損マウスを作製し、病的血管リモデリングと動脈硬化に対する作用を検討する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度はAPLによる心血管保護作用のさらに詳細な解明のため、APLとTGFβRIIとの結合についても、直接的なのか、他の蛋白を介しているかも含めて検討していく。またアデノウイルスの系を用いてAPLの血中濃度を上昇させることにより、病的血管リモデリングと動脈硬化に対するAPLの治療効果についても検討する予定である。さらにTGFβRII flox/floxマウスの凍結胚を海外から授与して頂き、既に凍結胚からの産仔の作製も開始している。まずはマクロファージ特異的マーカーであるLysMをプロモーターとしたCreマウスとTGFβRII flox/floxマウスを交配することにより、マクロファージ特異的TGFβRII欠損マウスを作製し、病的血管リモデリングと動脈硬化に対する作用を検討する予定である。今後は平滑筋細胞や血管内皮細胞におけるAPLの作用についてもそれぞれの特異的プロモーターCreトランスジェニックマウスと交配することにより、in vivoにおいてもAPLの作用がTGFβRIIを介しているかを検討していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:平成29年度は、平成28年度までの研究費で遂行した研究がある程度まとまったため、学会発表、論文作成に多くの時間を割き、研究費はある程度抑えることができた。 使用計画:最終年度はアデノウイルスの系を用いてAPLの血中濃度を上昇させることにより、病的血管リモデリングと動脈硬化に対するAPLの治療効果についても検討する予定である。さらにTGFβRII flox/floxマウスの凍結胚を海外から授与して頂き、マクロファージ特異的マーカーであるLysMをプロモーターとしたCreマウスとTGFβRII flox/floxマウスを交配することにより、マクロファージ特異的TGFβRII欠損マウスを作製し、病的血管リモデリングと動脈硬化に対する作用を検討する予定である。これらのマウスの購入費用、飼育費用、アデノウイルスの作製費用、論文を投稿を開始しており、最終的な掲載費用も必要となり、本年度使用額に加えて今年度の次年度使用額を合わせた費用が必要になると考えている。
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備考 |
第90回 日本内分泌学会学術総会 若手研究奨励賞 受賞、小川隼人 第38回 日本肥満学会 若手研究奨励賞 ファイナリスト、小川隼人
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