研究課題
本研究の目的は、動脈硬化予防のために、制御性T細胞(Treg)を利用した免疫寛容誘導法を確立し、臨床応用するための基盤を確立することである。本年度は、継続して取り組んできた皮膚から紫外線を利用したTreg誘導による動脈硬化予防の研究成果を論文に掲載できた(Sasaki N, Yamashita T, et al. UVB exposure prevents atherosclerosis by regulating immunoinflammatory responses. Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2017; 37: 66-74)。具体的には、皮膚で免疫寛容性の樹状細胞を誘導し、それが所属リンパ節に移行して、免疫寛容機能に関わるTregを誘導することを、遺伝子組換えマウスならびに細胞実験にて証明できた。皮膚治療で臨床応用されている方法を、全身の内科的疾患の治療法・予防法として応用する新たな取り組みにつながると考えられる。Tregの免疫抑制分子Cytotoxic T lymphocyte antigen-4(CTLA-4)の動脈硬化における役割を調査した研究の成果を論文に掲載できた(Matsumoto T, Sasaki N, Yamashita T, et al. Overexpression of CTLA-4 prevents atherosclerosis in mice. Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2016; 36: 1141-51)。2つの報告ともに、免疫寛容誘導による動脈硬化予防を目指し、それを達成した成果である。重要課題の一つと考えていた抗原特異的Treg細胞の誘導に関しては、少なくともこれまで報告された論文の方法では、動脈硬化モデル動物でうまく誘導できずに経過している。
1: 当初の計画以上に進展している
紫外線がTregを増加させて免疫寛容を誘導する方法は、動脈硬化動物モデルにおいて非常に有効に疾患予防を達成し、その機序についても樹状細胞の関与まで証明できて、予定通りの進行であった。論文化が比較的順調に経過したことが達成を早めた理由である。CTLA-4を過剰発現させることで、T細胞機能を制御し、免疫寛容を誘導する方法に関しては、これも予想以上の速さで実験が進行し、論文化に至った。以上、2つの研究計画については、予定以上の速度で進行し、論文化も達成したので、当初の計画以上に進展していると評価した。しかし、抗原特異的なTreg誘導は、世界中の数多くの研究室で、それを目指した研究がなされており、いくらかは報告もされてはいるが、中々普遍的に、それを生体内で実現できる方法は、見つかっていないのが現状である。我々も、論文に報告された方法を追従したり、少し変更を加えた方法に挑戦したが、現状では成功に至っていない。何か、革新的な発見がなされない限りは、この研究は、本研究予定期間内に達成が困難かもしれない。
当初から、腸管と皮膚から免疫寛容を誘導することで、動脈硬化を予防するということを目標に研究を推進してきた。また、免疫寛容に関わる免疫細胞に存在する機能分子にも注目した研究を行っている。両方で、少なくとも一つの方法で動脈硬化予防が達成できることを示し、その機序の解明を行って報告し、ある程度の目標を早期に達成できた。今後は、主に「腸管」からの免疫寛容を目指して、「腸内細菌叢」に注目した研究を進展させる方針である。昨今の腸内細菌と疾患発症との関連調査研究の中で、腸内細菌は免疫と代謝の機序を介して、生体機能に大きな影響を与えていることが示されており、本研究の中では、その機能の中の免疫寛容を誘導するような腸内細菌の候補にも注目して、当初の目標達成を目指して研究を推進する方針にしている。すでに、乳酸菌を利用した、マウス動脈硬化抑制の成果も一部で出てきており、さらに疾患に特徴的な腸内に存在する細菌の同定も開始しており、免疫機能(特に免疫寛容)との関係を明らかにしながら研究を進めていく方針である。抗原特異的なTreg誘導方法の探索については、どうも免疫研究のレベルが、まだそれを達成できるほどに進展していないという現実があり、新規の方法が報告されない限りは、積極的に進めることを控える方針とした。
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Arterioscler Thromb Vasc Biol.
巻: 37 ページ: 66-74
10.1161/ATVBAHA.116.308063.
巻: 36 ページ: 1141-1151
10.1161/ATVBAHA.115.306848.