研究課題
動脈硬化の発症には、血管の慢性炎症が重要な役割を果たしている。血管の慢性炎症にはマクロファージが中心的な役割を果たしているが、マクロファージの活性化メカニズムについては不明な点が多い。本研究はToll様受容体(TLR9)と、そのリガンドである自己由来の遊離核酸断片の役割について検討を行っている。これまで、動脈硬化モデルマウスであるアポリポ蛋白E(ApoE)欠損(KO)マウスとTLR9 KOマウスを交配したApoE/TLR9 dKOマウスは、通常のApoE KOマウスと比較してアンジオテンシンII誘導下での、大動脈における動脈硬化病変の進展が抑制されること、大動脈起始部の動脈硬化病変における、脂質沈着や各種炎症性物質の発現が減少することが判明した。さまざまな分子生物学的検討により、TLR9の欠損により、血管の炎症が抑制されることが判明している。また、マクロファージにおけるTLR9の活性化が、動脈硬化の発症に関与するという仮説を証明するために骨髄移植実験を行い、骨髄細胞におけるTLR9が血管の炎症と動脈硬化の発症に関与することを示した。さらに、TLR9の特異的阻害薬をApoE KOマウスに投与すると、アンジオテンシンII誘導下の動脈硬化病変の進展が抑制されたことから、TLR9が血管の炎症と動脈硬化の治療標的になるか可能性も示唆された。TLR9が血管の炎症と動脈硬化を進展させるメカニズムを解明するため、ApoE KOマウスとApoE/TLR9 dKOマウスのマクロファージを用いたin vitro実験を行っている。
2: おおむね順調に進展している
TLR9の血管の炎症や動脈硬化に与える影響を検討するためApoE/TLR9 dKOマウスを作製し、通常のApoE KOマウスを対象としたin vivo実験を行った。ApoE/TLR9 dKOマウスでは、アンジオテンシンII誘導下での動脈硬化が、ApoE KOマウスに比べて有意に抑制されていた。定量的RT-PCR法やウエスタンブロッティング法を用いてMCP1やTNFaなどの炎症物質の発現をの指標を比較すると、TLR9 KOマウスで抑制されていることが明らかになった。さらに、TLR9アンタゴニストを用いた動脈硬化抑制実験も行っており、アンタゴニスト投与により、ApoE KOマウスにおけるアンジオテンシンII誘導下での動脈硬化が抑制されることを明らかにした。さらに骨髄移植実験により、骨髄細胞由来のマクロファージが血管の炎症や動脈硬化に関与することを明らかにした。以上から、これまでのところ期待していた通りの結果が得られていると考えている。今後は、骨髄移植モデルやアンタゴニスト実験における組織学的解析を中心に進めていきたい。また、マウスを用いた実験結果を検証するためin vivo実験を行っている。これまでにTLR9 KOマクロファージと野生型マクロファージで、炎症応答の差を検証してきた。TLR9 KOマクロファージでは炎症性の刺激に対する応答が、野生型マクロファージに比べて弱いことが明らかになり、MCP1やTNFaの発現が低下していた。この差が、ApoE/TLR9 dKOマウスにおける血管の炎症や動脈硬化が抑制される一つの原因であることが示唆された。
遺伝子欠損マウスを用いた検討は、組織学的解析を残してほぼ終了している。今後は、骨髄移植モデルやアンタゴニスト実験における大動脈基部の大動脈病変を用いて、マクロファージの浸潤やTNF-aなどの炎症性物質の発現を免疫染色を用いて検討する予定としている。また、大動脈からマクロファージを特異的に分離し、CD11cやCD206などの表面マーカーの発現から、TLR9がM1/M2 polarizationに与える影響をFACSを用いて検討する。さらに、TLR9が血管の炎症と動脈硬化を促進するメカニズム解明のためのin vitro実験を進め、さらに、動脈硬化病変を伴う大動脈の組織培養上清を用いてマクロファージを刺激するなど、in vivoに近い形の実験系も検討したい.また、ヒトの動脈硬化病変の進展にもTLR9が関与するかを検討したい。ヒトにおいてもTLR9を介した炎症が動脈硬化病変の形成に関与するかどうかを、冠動脈疾患患者の血液から遊離核酸断片を抽出し、血管内超音波所見やOCT所見などの各種画像診断所見との関係を比較検討することで検証したい。今年度は米国心臓病学会などの国際学会での発表を行い、同時に論文発表ができるよう論文の準備を進めたい。
国内学会への参加を中止したので、使用額と助成額に差が生じました。翌年度は、in vitro実験や臨床検体の解析に市販のキットや試薬が必要なため、それらの購入費用にあてようと考えています。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (26件) (うち国際学会 2件、 招待講演 3件)
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