研究課題
本研究課題では、私達が独自に見出した肥満関連代謝異常の発症・進展に関わる2つの候補遺伝子(Nrg4とFam13a)についてその機能とメカニズムの解析を行った。研究期間内にNrg4、Fam13aによる新規の代謝制御メカニズムを数多く明らかとすることでできた。Fam13aはインスリン受容体直下でシグナルを受け取るIRS-1のプロテアソームにおける分解を阻害する結果、脂肪細胞のインスリンシグナルを増強した。IRS-1のプロテアソーム分解にはセリン・スレオニン残基のリン酸化が重要であり、Fam13aは脱リン酸化酵素であるPP2AをリクルートしてIRS-1のセリン・スレオニンリン酸化レベルを低下させることでIRS-1をプロテアソーム分解から保護することがわかった。Fam13aを欠損したマウスでは脂肪組織のインスリンシグナルが低下する結果、肥満の程度に関わらず、全身のインスリン感受性が低下していた。一方Nrg4は膜蛋白であるが、その細胞外ドメインが切断されて分泌され、EGF様増殖因子として機能することが知られていた。私達はNrg4が血管新生を誘導する新規のアディポカインであることを見出した。Nrg4を欠損したマウスでは脂肪組織の血管密度が低下する結果、褐色脂肪におけるエネルギー消費が低下し、脂肪を蓄積しやすくなることがわかった。また肥満時には白色脂肪組織の血管密度が低下する結果、低酸素状態が悪化し、脂肪の慢性炎症を惹起して肥満関連代謝異常を増悪させることがわかった。メカニズムは全く異なるが、Fam13a、Nrg4はいずれも脂肪細胞が発現し、肥満・代謝異常を抑制する新規遺伝子であることがわかった。肥満に伴って、これら2つの遺伝子発現が著明に減少することから、Fam13a、Nrg4の活性化は肥満に伴う代謝異常に対する全く新しい治療戦略になり得ると考えられた。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件)
Proc Natl Acad Sci U S A.
巻: 115 ページ: 1529-1534
10.1073/pnas.1720475115.
Biochem Biophys Res Commun.
巻: 503 ページ: 378-484
doi: 10.1016/j.bbrc.2018.06.043.
巻: 504 ページ: 427-433
doi: 10.1016/j.bbrc.2018.08.197.