研究課題/領域番号 |
16K09529
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
高田 俊範 新潟大学, 医歯学総合病院, 特任教授 (40361919)
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研究分担者 |
坂上 拓郎 新潟大学, 医歯学総合病院, その他 (00444159)
森山 寛史 独立行政法人国立病院機構西新潟中央病院(臨床研究部), 統括診療部, 呼吸器内科医師 (60463981)
朝川 勝明 新潟大学, 医歯学総合病院, その他 (60599158) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 間質性肺疾患 / 皮膚筋炎 / 抗MDA-5抗体 / サイトカイン / IL-10 / IL-15 |
研究実績の概要 |
膠原病は、比較的高頻度に間質性肺疾患(ILD)を合併する。多発性筋炎-皮膚筋炎(PM-DM)では、約30-50%にILDを合併する。PM-DMには、抗アミノアシル-tRNA合成酵素(ARS)抗体症候群、筋症状に乏しい皮膚筋炎(ADM)、およびオーバーラップ症候群の三亜型が知られている。このうちADMは、約半数で急速進行性ILDを合併する。抗MDA-5抗体は、RNAヘリカーゼの一種であるMDA-5を認識する自己抗体で、ADMに特異的にみられる。抗MDA-5抗体陽性ADMは陰性例に比べ急速進行性ILDを合併しやすいこと、抗MDA-5抗体価はADM-ILDの予後予測因子となること、および治療前の抗MDA-5抗体価と血清CX3CL1が正の相関を示すことを報告されている。しかし、その後の研究で、生存例と同じく死亡例でも治療により抗MDA-5抗体価が低下していることが明らかになった。 そこで、2000年以降、当院と魚沼基幹病院で治療した抗MDA-5抗体陽性ADM-ILDの臨床記録を後ろ向きに調査した。治療前、あるいは治療中の保存血清がない症例は除外した。サイトカインパネル分析を用いて、38種類の血清サイトカイン/成長因子(GF)タンパク質濃度を測定した。はじめに、生存者と非生存者の間の各サイトカイン/GFの濃度を比較した。ついで、複数回血清が保存された患者を対象に、治療中のサイトカイン/GFレベルの変化を調べた。それによれば、治療前の血清IL-15が、死亡群では生存群に比べ有意に高値を示していた(p<0.05)。また、治療期間における各サイトカインの傾きを比較すると、死亡群では生存群に比べIL-10およびIL-15の傾きが有意に増加していた(いずれもp<0.01)。以上の結果から、ADMにともなう致死的ILDではIL-10とIL-15が肺障害に関連している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度は、症例データベース作成を行った。また、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)追加により軽快した1例について、臨床経過とMMF追加前後の血清サイトカイン濃度の変化を詳細に報告した。 研究2年度は、初年度に作成したデータベースを元に、抗MDA-5抗体陽性ADM-ILD26例(生存17例、死亡9例)を対象として38種類の血清サイトカイン濃度を網羅的に測定した。それによれば、①治療前の血清IL-15が、死亡群では生存群に比べ有意に高値を示していた(p<0.05)。IL-15以外に、両群間で有意差がみられたサイトカインはなかった。②生存群17例、死亡群9例のいずれも、治療により抗MDA-5抗体価が減少していた。③治療期間に複数回血清を保存されていた生存群11例、死亡群6例を対象に、各サイトカイン濃度の1日あたりの変化率(傾き)を算出した。治療期間における各サイトカインの傾きを比較すると、死亡群では生存群に比べIL-10およびIL-15の傾きが有意に増加していた(いずれもp<0.01)。これらの結果が得られたことから、研究2年度の目的はほぼ達成できたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
研究1,2年度の成果により、致死的な抗MDA-5抗体陽性ADM-ILDではグルココルチコイドを中心とした多剤併用免疫抑制療法下でも血清IL-10とIL-15が増加していることが明らかになった。 In vivo, in vitroの研究から、1)IL-15は、NK細胞や細胞傷害性Tリンパ球を介して肺障害を増悪させる、2)IL-15は、NK細胞や制御性T細胞からのIL-10産生を増加させる、3)IL-10は、NK細胞活性化増幅、fibrocyte誘導、M2活性化を介して肺障害を引き起こす、ことが知られている。さらに、IL-15の発現制御因子の一つはNF-kBで、NF-kBは通常グルココルチコイドで抑制される。ところが、申請者らが調査した症例はいずれもグルココルチコイドを含む強力な免疫抑制療法が行われていたにもかかわらず、IL-10とIL-15の増加が認められた。これらの結果から、抗MDA-5抗体陽性ADM-ILDでは、①抗MDA-5抗体とは無関係に②グルココルチコイドでは抑制できない機序でIL-15が持続的に産生され③IL-10と共同して致死的な肺障害を引き起こしている、ことが示唆された。しかしながら、上述の肺障害機序はいずれもIn vivo, in vitroの研究から導き出されているもので、抗MDA-5抗体陽性ADM-ILD症例で確認されているものではない。 そこで、最終年度は他の22種類のサイトカインを同時に測定できる別のサイトカインパネルを用い、本疾患の肺障害機序をさらに詳細に検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究初年度は、症例データベースの作成を第一の目標とした。研究2年目は、抗MDA-5抗体陽性ADM-ILD 26例(生存17例、死亡9例)を対象として38種類の血清サイトカイン濃度を網羅的に測定した。これにより、ADMにともなう致死的ILDでは、IL-10とIL-15が肺障害に関連している可能性が示唆された。ここまでで研究2年目の目的はほぼ達成できたため、最終年度使用額が生じることとなった。 最終年度は、これら26例の保存血清を対象として解析サイトカインの範囲を拡大しパネル解析をおこなうために、2年度から繰り越した金額を使用する。
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