研究課題/領域番号 |
16K09532
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
花岡 正幸 信州大学, 学術研究院医学系, 教授 (20334899)
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研究分担者 |
安尾 将法 信州大学, 学術研究院医学系(医学部附属病院), 講師 (20402117)
北口 良晃 信州大学, 医学部附属病院, 助教(診療) (40447751)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 3群肺高血圧症 / 肺気腫 / VEGF受容体阻害薬 / 低酸素 / ラット |
研究実績の概要 |
血管内皮成長因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)受容体阻害薬(SU5416)投与と低酸素曝露による第3群肺高血圧症(肺気腫合併肺高血圧症)モデルの確立を目的に、まずSU5416投与のみで肺高血圧形成の有無を確認した。生後4週齢のSDラットにおいて、SU5416 をday 1, 8, 15投与群とday 1, 21投与群に分けて、それぞれ検討した。皮下注開始から6週間後に解剖を行い、両群で正常に比して右心重量の増加が確認され、肺高血圧症を発症していることが示唆された。 次に、低酸素曝露を追加し検討した。Day 1より10%酸素曝露下での飼育を行い、同日からSU5416皮下注を開始した。投与方法を単回投与(day 1)群と、複数回投与(day 1, 8, 15)群に分けて比較した。6週間後に開胸下での肺動脈圧測定と、解剖後に右心重量測定を行った。単回投与群の平均肺動脈圧は33 mmHg、複数回投与群では31 mmHgであり、いずれも高値であった。右心重量は複数回投与群の方が高値であった(右心/中隔+左室重量比:単回投与群0.2、複数回投与群0.51)。それぞれのラット肺で作成したヘマトキシリン・エオジン染色標本で、肺気腫形成の程度を表すmean linear intercept(MLI)を計測したところ、いずれも高値(MLI:単回投与群125.06μm、複数回投与群120.78μm)を示し、 肺気腫の形成が認められた。血管病変については、Heath-Edwards分類にてgrade 1~2(中膜肥大~内膜増殖)の病変がみられ、高度な血管病変である叢状病変(grade 4~5)の形成は認めなかった。本検討において得られたラット肺の病理所見は、ヒトの肺気腫合併肺高血圧症に類似していると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに、呼吸器疾患に伴う肺高血圧症(第3群)の動物モデル作製の検討を行った。低酸素曝露期間は4週間で検討していたが、呼吸器疾患に伴う肺高血圧形成の主要な病態生理として低酸素性肺血管攣縮があり、低酸素期間を6週間に延ばした方がより第3群肺高血圧症に近いモデルとなることが想定され、低酸素飼育期間を6週に延長し検討している。低酸素曝露期間を延長してもラットの飼育は問題なく継続することができ、生後4週で飼育を開始し、10週にて解剖、肺動脈圧測定を行うことが可能であった。平均肺動脈圧は低酸素曝露期間4週で検討した場合と近似していた。現在、摘出した肺標本で肺気腫の程度を測定中である。 低酸素曝露期間が確定すれば動物モデルの作製方法の検討は終了し、以降は肺血管拡張薬の効果の検証に進む予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は肺気腫合併肺高血圧症ラットモデルに、肺血管拡張薬((1)シルデナフィル、(2)リオシグアト、(3)ボセンタン)をそれぞれ単剤で投与した場合の効果を検討し、またホーミングペプチド(CAR)を同時投与することによる変化の検証を予定している。 研究の推進を確実にするために、3剤の中から特に一酸化窒素(nitric oxide: NO)経路への作用に注目して、シルデナフィル投与から始め、以下の検討を行った後、進捗状況を鑑みながら他の2薬も順次検討していく。 肺血管拡張薬投与後に検討する主な内容としては、①組織学的検討:肺血管中膜肥厚、求心性新生内膜病変等重症PAHに特徴的な所見の観察、②肺気腫合併肺高血圧ラットモデルにおける肺小血管へのCAR分布の確認、③血行動態の評価、④炎症性サイトカインの検討(肺のホモジネートを用い、肺動脈平滑筋細胞増殖に関与するinterleukin(IL)-6、IL-21濃度をELISA法にて測定)、⑤酸化ストレスの検討(肺のホモジネートおよび血清を用い、生物学的抗酸化能(bioantioxidant power: BAP)を測定)、⑥肺構造維持プログラムの検討(vascular endothelial growth factor(VEGF)、transforming growth factor beta 1(TGF-β1)、あるいはToll-like receptor 4(TLR4)といった肺構造維持プログラムへの関与が推定されている因子について、免疫染色、ELISA法、フローサイトメトリーによる解析)などである。研究分担者は同じ講座(研究室)に所属しており、以前から共同研究を行っていることから円滑な研究の推進が期待できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度、第3群肺高血圧症(肺気腫合併肺高血圧症)の動物モデルの確立が研究の中心となっており、主としてラットの購入・飼育、および血管内皮成長因子(vascular endothelial growth factor: VEGF)受容体阻害薬(SU5416試薬)の購入に経費を使用している。このため、当初の計画より研究費が削減できている。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度以降、ホスホジエステラーゼ5(phosphodiesterase 5: PDE-5)阻害薬、および可溶性グアニル酸シクラーゼ(soluble guanylate cyclase: sGC)刺激薬を作製した肺気腫合併肺高血圧症ラットに投与し、その血管拡張効果を評価する。さらに、低酸素血症に対する影響、炎症や酸化ストレス・アポトーシスへの効果、VEGF・一酸化窒素(nitric oxide: NO)システムとの関連を検討し、作用機序の解明を試みる。肺気腫抑制効果に関しても検討を加える。これらの実験には、種々の試薬やキットが必要なため、繰り越した研究費は平成29年度請求額と合わせて有効に活用する。
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