研究課題/領域番号 |
16K09570
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
菊池 慎二 筑波大学, 医学医療系, 講師 (80588971)
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研究期間 (年度) |
2016-10-21 – 2021-03-31
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キーワード | 小細胞肺癌 / CADM1 / スプライシングバリアント / 癌幹細胞 / 精巣腫瘍 |
研究実績の概要 |
免疫グロブリン・スーパーファミリー細胞接着分子CADM1は非小細胞肺癌(NSCLC)を含む様々な上皮系の癌において腫瘍抑制に関与する.我々は,CADM1が小細胞肺癌(SCLC)において高頻度に過剰発現し,悪性増殖能に関与することを示した. 機能解析では,siRNAによりCADM1発現を抑制したSCLC細胞において球状細胞集塊の形成が抑制された.これは,CADM1がSCLCの悪性増殖能に関与するとともに,癌幹細胞マーカーと似た働きをもつ可能性を示している.癌幹細胞は自己複製能や多分化能を有する未分化な細胞で,治療後の再発や薬剤耐性の重要な原因と考えられている.そこで,SCLCにおけるCADM1と癌幹細胞マーカー候補(CD133,CD44,ALDH1)の発現について,外科的切除されたSCLC34例及びNSCLC27例を対象に,免疫組織化学染色にて比較検討を行った.結果,CADM1はSCLC34例中24(71%)が強陽性,7(21%)が弱陽性,3(9%)が陰性で,CADM1の高発現を示す腫瘍は患者の予後不良と有意な相関を示した.一方,CD133は,SCLC 34例中1例(3%)が強陽性,6例(18%)が弱陽性,27例(79%)が陰性で,SCLCでNSCLCより有意にCD133陰性例が多かった.さらに,CD44は,SCLCは34例中3例(9%)が強陽性,6例(18%)が弱陽性,25例(74%)が陰性,ALDH1は,SCLCは34例中10(29%)が強陽性,6例(18%)が弱陽性,18例(53%)が陰性であった.癌幹細胞マーカー候補の発現はCADM1の発現と有意な相関はなく,全生存率にも有意差を認めなかった.小細胞肺癌幹細胞の性状解析や特異的マーカーの同定には更なる研究が必要と思われた. 以上の研究成果を「第57回日本肺癌学会学術集会(福岡)」で発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
科研費交付以前から継続しているSCLCの病態解明の研究成果を,今年度は「第57回日本肺癌学会学術集会(福岡)」において発表する事が出来た. また,SCLCで特異的に発現するCADM1のスプライシングバリアントは,マウス正常組織では精巣のみに発現しており,ヒト精巣腫瘍の一部にもその発現を認めた.精巣腫瘍はSCLCと同様に早期に他臓器転移を来たす特徴を持つ.そこで,精巣腫瘍におけるCADM1バリアントの発現の意義を検討するため,まず,化学療法後に肺切除術を行った精巣腫瘍肺転移32症例の臨床病理学的特徴と長期治療成績を後ろ向きに解析して予後因子を検討した.結果,切除した肺転移巣が5個以上の症例,最終病理診断でviableな腫瘍細胞を認めた症例,肺切除術前フリーβHCG,インタクトHCG,及びLDHが高値であった症例が有意に予後不良であった.以上の研究成果を「第69回日本胸部外科学会定期学術集会(神戸)」で発表する事が出来た. 次年度に向けてはCADM1に着目した小細胞肺癌の血清学的診断法及び予後予測の検討を行っている.CADM1はその細胞外領域がsheddingされ,可溶性蛋白として存在する。そこで我々は、SCLC患者の血清中に可溶性CADM1が存在することを検証するため、サンドイッチELISA法の確立を行っている。また,血中循環腫瘍DNAを採取して,我々が見出した小細胞肺癌に特異的に発現するスプライシングバリアントを解析することにより,小細胞肺癌の新しい診断法及び治療方針に関わる血清マーカーとなる可能性を検討している。
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今後の研究の推進方策 |
まず第一に,CADM1に着目した小細胞肺癌の血清学的診断法及び予後予測の検討を進める. 次に,SCLC細胞の転移抑制効果をマウスモデルで検証するために、NCI-H69 細胞の尾静脈-肺への転移形成を安定に行えるようにする。そして、CADM1 機能阻害活性をもつヒト化抗体,又は,CADM1分子経路の機能阻害剤を用いて、ヒト SCLC 細胞のヌードマウス転移モデルにおける転移抑制効果を判定する。 さらに近年、癌治療の新しい柱として免疫チェックポイントを標的とした癌免疫療法が急速に発展し、肺癌の分野では、構造的に免疫グロブリン・スーパーファミリーに属するPD-1が臨床応用されている。免疫グロブリン・スーパーファミリーに属するCADM1はCRTAMと結合して癌細胞の免疫応答に関与すること(Galibert et al, J. Biol. Chem. 280:21955-21964, 2005)、腫瘍細胞に発現するCADM1は活性化したVγ9Vδ2 T細胞のCRTAMと結合してT細胞の細胞死を導くこと(Dessarthe et al, J.Immunol. 190:4868-4876, 2013))が明らかにされた。そこで我々は、CADM1の細胞外領域が担う免疫応答に焦点をあて、小細胞肺癌の免疫抑制に関わる分子機構をCADM1-CRTAMの経路に基づいて解明する。さらに、抗 CADM1 ヒト化抗体を用いて、培養細胞やマウス実験系における小細胞肺癌の浸潤転移抑制を試み、新規治療法の開発を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
各種抗体,プラスチック器具,一般試薬などの消耗品の多くはすでに購入済みのものを使用したため,今年度に購入する必要はなかった.今年度購入しなかった分は次年度の研究に使用したいと考えている.
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次年度使用額の使用計画 |
SCLC患者における血清中CADM1検出のためのELISA法の確立のために,各種抗体及び消耗品を購入する.血清の保存にはつくばヒト組織診断センターを利用する。CADM1下流分子経路の解析には,細胞培養関連試薬,PCR関連試薬,RNAi関連試薬,各種抗体,プラスチック器具,一般試薬などを必要とする.一方,マウスを用いた転移抑制モデルの解析には,マウス購入費,マウス飼育費を必要とする.さらに,研究成果の社会への発表の目的で,論文投稿費,英語論文校閲費,成果発表のための国内,外国旅費を必要とする.
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