細胞が足場として利用している基質の硬度を感知する基質力覚検知機構を明らかにし、肺や気道の線維化やリモデリングの病態機序を解明することを目的とした。 正常ヒト肺線維芽細胞を異なる硬さのゲル上で培養する実験を行った。軟らかなゲル上で培養した細胞と比較すると、硬いゲルやプラスチック上で培養した細胞では筋線維芽細胞のマーカーであるα-smooth muscle actin (α-SMA)蛋白発現が有意に増強していた。硬いゲル(25kPa)上で培養した細胞は軟らかなゲル(2kPa)で培養した細胞と比べ細胞遊走能の増強を認めた。α-SMAのsiRNA導入により、細胞遊走が抑制された。以上より、硬い基質の環境では線維芽細胞が活性化し、筋線維芽細胞へ分化し、α-SMA発現を介して遊走能が増強することが示された。肺線維症の病態機序として、線維化に伴う肺の硬化が線維芽細胞の活性化を介して線維化を更に促進する、正のフィードバック機構が存在することが示唆された。 PD-L1を強発現するヒト肺がんHCC827細胞株における基質硬度のPD-L1発現への影響を検討した。細胞を軟らかなゲル上もしくは浮遊した状態で培養すること、アクチン重合を阻害することによりPD-L1発現が抑制された。以上より、肺がんではがん組織の硬さが微小環境として肺がん細胞のPD-L1発現を制御しており、その機序として細胞接着を介したアクチン細胞骨格が関与することが示唆された。 ヒト気道平滑筋細胞をコラーゲンゲル内で3次元培養し、組織工学的な平滑筋組織作成を試みた。細胞伸展装置を用いて細胞を含有したゲルに繰り返し伸展刺激を与えることにより、細胞は伸展方向に伸長配向し、平滑筋組織様の形態を呈しα-SMA発現も増強した。この3次元組織を用いて細胞内Ca2+応答を捉えることにも成功した。本法を細胞機能解析研究へ応用することが今後の目標である。
|