研究課題/領域番号 |
16K09585
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
植松 崇之 北里大学, 北里大学メディカルセンター, 上級研究員 (90414060)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | インフルエンザウイルス / 自然免疫 / 感染症 / シグナル伝達 / 免疫学 |
研究実績の概要 |
これまでの研究代表者らの解析により、Immunoreceptor tyrosine-based activation motif(ITAM)アダプター分子DAP12に会合する新規のITAM関連受容体であるIgSFR2は、インフルエンザウイルス(IFV)のヘマグルチニン(HA)タンパクと広範な結合活性を有し、かつ糖鎖修飾構造依存的にこれを認識することが明らかになっている。そこで、平成29年度は、研究計画調書記載の方法に従って、前年度までに合成を完了したIgSFR2が結合する糖鎖モチーフが、IgSFR2を発現する樹状細胞やマクロファージに及ぼす生理作用および免疫学的作用を、主にin vitroにおいて検討した。 具体的には、マウス生体および組織に由来する複数の樹状細胞およびマクロファージを準備し、糖鎖モチーフで細胞を刺激した場合の炎症性サイトカイン/ケモカイン産生を、ELISAで解析した。その結果、糖鎖モチーフ単体はこれらの細胞に対する免疫刺激活性を有さず、炎症性サイトカイン/ケモカインの産生は全く認められなかった。次に、これらの細胞をIFVで刺激すると同時に、糖鎖モチーフを添加したところ、糖鎖モチーフの濃度依存的に、IFV刺激によって産生される炎症性サイトカイン/ケモカイン量が減弱することが明らかとなった。すなわち、この糖鎖モチーフは樹状細胞およびマクロファージにおけるIgSFR2を介したIFVの吸着機構もしくは取込機構を競合的に阻害することによりIFVの細胞への侵入を減少させ、結果として宿主細胞から産生される炎症性サイトカイン/ケモカイン量を減弱させる作用があることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成29年度については、IgSFR2が結合する糖鎖モチーフが、IgSFR2を発現する樹状細胞やマクロファージに及ぼす生理作用および免疫学的作用を明らかにすることを目的として、主としてin vitroの実験を展開して評価を行った。その結果、当初予定していた実験の2/3程度を滞りなく終了し、かつ最終年度に予定しているin vivo実験の実施に際しても、極めて重要な知見を得ることができた。しかしながら、他の業務の都合上、当初予定していた宿主細胞における糖鎖モチーフの集積や取り込み過程を蛍光プローブやpHインジケーターを用いて解析する実験を進展させることができず、具体的な結果を取得することができなかった。このため、平成29年度の進捗状況に関する評価としては、全体を通じて「(3)やや遅れている。」とした。平成30年度は研究計画の最終年度となるため、エフォート配分に注意しながら、研究計画調書に記載した解析を全て終了させ、今後の研究のさらなる進展に向けた有望な結果を得ることが出来ればと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は研究計画の最終年度となるが、IgSFR2が結合する糖鎖モチーフをマウスに投与した場合の生理活性および安全性を、まずきちんと評価したいと考えている。加えて、主にインフルエンザ肺炎重篤化抑制の観点から、IFV 感染モデルマウスに対する糖鎖モチーフ投与の免疫学的作用を解析することにより、糖鎖モチーフの投与によって、インフルエンザ肺炎の増悪化を最終的に抑制することができるか否かを検討し、新たなインフルエンザ肺炎治療の選択肢を提供し得る知見を見出すことが出来ればと考えている。さらに、平成29年度中には「先端バイオイメージング支援プラットフォーム」に採択され、大阪大学との共同研究により、クライオ電子顕微鏡での解析によるIgSFR2/IFV複合体の高次構造の解析にも取り組んだ。また、浜松医科大学との共同研究により、実験動物用CT撮影装置を用いた臨床的病態評価についても着手することが出来ている。平成30年度はこれらの研究も発展させ、多方面の科学的アプローチから、新規自然免疫受容体IgSFR2による糖鎖依存的なIFV認識の意義について詳細に検討していきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 平成29年度については、クライオ電子顕微鏡や実験動物用CT撮影装置を用いた解析を予備的に実施するに当たっての旅費や研修費が嵩んだが、予定していた実験の2/3程度を実施するに留まったため、全体を通じては結果的にほぼ予定通りの執行額となった。さらに、関連した研究課題で民間助成金も獲得することが出来たため、約1万円ほどの繰り越しが生じた。 (使用計画) 平成30年度の研究費は、主としてマウスの維持と購入、ELISAやフローサイトメーター解析、ウエスタンブロットで用いる抗体や測定分析キット、分子生物学研究用の試薬などの消耗品の購入に充てられる。また、本研究を遂行する上で、細胞の分離培養を行うための試薬やプラスティック器具の購入も不可欠である。以上の消耗品の購入には、これまでの試算から年間60万円程度を見込んでいる。また、研究協力者との研究打ち合わせや学会参加・発表などのための旅費も必須である。これには年間10万円程度を見込んでいる。その他、受託解析費用(年間10万円程度)などの経費を加算し、平成30年度の研究費として総額約80万円の使用を見込んでいる。なお、前年度からの繰り越し分についても、平成30年度の研究費に上乗せし、経済的かつ合理的な執行に努める。
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