研究課題
慢性腎臓病(CKD)における筋減弱症(サルコペニア)は死亡率および心血管合併症のリスクを増大させる。しかし、CKDにおけるサルコペニアの病態は明らかではなく、予防や治療法が確立されていない。そこで本研究では、筋芽細胞由来のC2C12を対象とし、CKDにおけるサルコペニア発症の機序の解明を目指した。CKDでは腎機能の低下により体内に尿毒素が蓄積するため、サルコペニア発症には尿毒素が関与すると考えた。そこで本研究では尿毒素の中でも毒性が強いインドキシル硫酸を用いて、尿毒素による筋細胞への影響を検討した。サルコペニアの発症には骨格筋におけるインスリン抵抗性が関与が考えられるため、インドキシル硫酸が与えるインスリン刺激による筋合成シグナル経路への影響について調べた。その結果、インドキシル硫酸が筋合成シグナル経路のp70s6キナーゼのリン酸化を阻害することが分かった。またインドキシル硫酸が筋細胞において、抗酸化応答経路であるペントースリン酸経路を亢進させていることが明らかとなったことから、酸化ストレス応答転写因子Nrf2の関与について検討を行った。その結果、インドキシル硫酸は、筋細胞において酸化ストレスを引き起こし、Nrf2の発現を有意に上昇させた。さらにNrf2の標的酵素であるグルコース6リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PD)等の発現も上昇させた。以上の結果から、筋細胞においてインドキシル硫酸は、酸化ストレスを誘導し、その結果、Nrf2を介してペントースリン酸経路を亢進させていることが分かった。また、インドキシル硫酸が筋細胞においてインスリン刺激による筋合成シグナル経路を阻害していることが明らかとなり、尿毒素による代謝の異常とインスリン抵抗性の亢進がCKDにおけるサルコペニアの発症に関与していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通り、筋細胞を用いて尿毒素のインスリン抵抗性の関与および酸化ストレスの関与を検討することができた。また、予想される結果が得られたため、本研究は順調に進んでいる。
平成29年度は組織(筋肉・腎臓等)および個体レベル(腎不全マウス)での代謝経路変化のモニタリングを行い、さらに治療候補薬を投与し、代謝の改善を評価することで治療薬の探索を行う。実験:腎不全モデル動物組織におけるインドキシル硫酸の局在および代謝経路の変化をイメージングMSで可視化する。これまでに細胞株を用いてインドキシル硫酸が細胞内に取り込まれることはいくつか報告されているが、インドキシル硫酸の局在を可視化した研究は行われていない。イメージングMSでは、インドキシル硫酸のみならず、酸化ストレスの指標となるGSHおよびGSSG、細胞内エネルギー状態の指標となるADPおよびATP、さらには解糖系やTCAサイクルの代謝物を測定することが可能である。そのため、インドキシル硫酸の局在と代謝の関係を明確にすることができる。本研究では、アデニン誘発腎不全マウスモデルから採取した腎臓・大静脈・心臓・骨格筋のインドキシル硫酸の局在をイメージングMSで可視化する。これに加え、組織の酸化、エネルギー状態、代謝フラックスを可視化する。腎不全モデル動物はC57BL/6J (8~10週齢)に0.2%アデニン食を6週間与えることで、アデニン誘発腎不全マウスモデルを作製する。この方法による腎不全モデル動物の作成法は、既存の方法であり腎障害が認められる。さらに血中インドキシル硫酸も高値となりことが分かっている。アデニン誘発腎不全マウスモデルは、アデニン食投与後7週目に解剖を行い、血液および組織を採取する。
研究分担者が今年度の分担金を使用しなかったため。
H29年度へ繰り越しして使用予定である。
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Scientific Reports
巻: 6 ページ: 36618
10.1038/srep36618.