研究実績の概要 |
腎臓の糸球体では限外濾過のために毛細血管に高い血圧がかかっており、糸球体の壁には外向きの大きな力学的負荷がかかっている。ポドサイトは糸球体の最外層を覆い、糸球体を抑え込むような形でその負荷に耐えている。また、病的な状態では糸球体腫大が生じ、負荷が増大すると考えられている。負荷に耐えるため、ポドサイトはアクチンフィラメントを中心とした細胞骨格を発達させているが、この負荷に耐えうるポドサイト同士をつなぐ細胞間接着分子については、十分な検討がなされていない。 本研究では、糸球体構造の維持機構をポドサイトの細胞間接着分子から明らかにしようとしている。細胞膜上にあるタンパク質に対する抗体を用い、このタンパク質の近傍にある分子群を標識し網羅的に検出する方法であるEnzyme-Mediated Activation of Radical Sources (EMARS)法に従って、ラットの単離糸球体表面にあるポドサイトの細胞間接着分子を中心に同定を試みた。その結果、従来ラットのポドサイトに報告されていたNeph1, Thsd7a, GLEPP1, connexin43に加え、報告されていなかったPECAM1, Celsr1が同定された。 さらに機能解析のためには、生体内のポドサイトの形態形質を示す培養条件の確立が必要であるが、これまでに報告されている培養系は生体内のポドサイトの特異形質には程遠いものだった。試行錯誤の結果、lamininのコーティング、高硫酸化された多糖体とビタミンA誘導体であるATRAの添加、低血清培地を組み合わせることによって、ポドサイトの一次突起、二次突起を誘導でき、ポドサイト特異的なpodocin, nephrin, podocalyxin, synaptopodinなどの遺伝子発現も単離糸球体の遺伝子量と比較しうるまで増加する系を確立することができた。
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