研究課題/領域番号 |
16K09613
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
松原 雄 京都大学, 医学研究科, 講師 (90422964)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 糖尿病性腎症 / 糸球体腎炎 |
研究実績の概要 |
末期腎不全の代表疾患として糖尿病性腎症、慢性腎炎、腎硬化症があげられるが、どの疾患もIV型コラーゲンと中心とした細胞外基質の増加、すなわち糸球体硬化症が共通した特徴となっている。我々はIV型コラーゲンの新たな転写因子としてSmad1を同定したのち、Smad1過剰発現マウスでは糸球体硬化が進展することを、糖尿病モデルを用いて報告した。その過程で、転写因子Smad1が野生型において糸球体内皮細胞にも豊富に発現していることを確認した。しかし、Smad1過剰発現マウスでは糸球体内皮細胞には明らかな異常は認めなかった。よって、本研究では、Smad1欠損マウスを用いて糸球体内皮細胞の変化を観察することとした。Smad1欠損マウスは胎生致死であるため、研究にあたってはRosa26 locusにタモキシフェン誘導型Creリコンビナーゼをノックインしたマウスと交配することによって、Smad1誘導全身欠損マウスを作成した。ところが、このマウスは、若年(20週まで)の間には内皮細胞を含めて糸球体に明らかな病変を認めなかった。そこで、本年度は、この誘導型Smad1全身欠損マウスに実験腎炎を惹起して、糸球体硬化を検討した。実験腎炎モデルであるNephrotoxic Nephritis(NTN)を惹起したところ、対照群である野生型と比較して、誘導型Smad1全身欠損の若年マウスで、糸球体中のIV型コラーゲンmRNAは発現が低下し、糸球体硬化も著明に改善していることが確認された。以上の結果より、Smad1は腎炎においても糸球体硬化における重要な役割を担っていることが証明された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前実験として、Smad1誘導全身欠損マウスにおける糸球体内皮細胞を検討した結果、30週を過ぎた頃から形態異常が観察できることがわかった。この誘導型Smad1全身欠損マウスの生存が予想以上に短く、ノックアウトを誘導した後、内皮の形態異常を観察する前にほとんどが死亡した。しかし、今年度は、Smad1の誘導型全身欠損マウスでは、20週までは糸球体内皮細胞に明らかな異常を認めないことが確認できた。また、同マウスで実験腎炎を惹起した結果、糸球体硬化が抑制されることも証明できた。よって、研究自体は当初の予想より遅れているが、進捗として新たな知見は得られているので、「やや遅れている」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
Smad1全身誘導欠損マウスの長期生存での糸球体観察が困難であるため、申請書作成時の計画に従い、血管内皮細胞に限定した誘導欠損マウスの作成を試みる。また、誘導早期で死亡前に糸球体内皮細胞障害を誘導しその表現型を確認する研究を行う。さらに、Smad1誘導欠損マウスの解析に頼らない研究、すなわち、ヒトの血栓性微小血管症の腎病理組織や糸球体内皮細胞障害の動物モデルでの内皮細胞に注目してSmad1の発現を検討することにより、引き続き、糸球体内皮細胞におけるSmad1の役割を検討予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
Smad1欠損マウスは胎生致死であるので、タモキシフェンによる誘導型Smad1欠損マウスを作成して表現型確認を試みている。申請者が前実験で行った結果では、欠損の誘導後30週で糸球体内皮細胞の変化が観察できることがわかっている。しかしながら、当初の予想と異なり、30週前に大半のマウスが死亡してしまい、今年度には新たなマウスが得られず、病理学的検討がほとんど行えなかった。そこで、当該年度はSmad1誘導欠損マウスの死亡前に腎炎を誘導したマウスを用いた検体を中心に解析を行った。これらは、前年度より既に検体を採取していたので、今年度使用すべき新たな検体解析費用が大幅に削減できた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、上記をふまえ、30週生存の誘導型Smad1全身欠損マウスの検討のみではなく、誘導早期で死亡前に糸球体内皮細胞障害を誘導しその表現型を確認する研究を行う。また全身欠損ではなく、内皮細胞限局にSmad1を欠損させるマウスを作成し同様の研究を試みる。さらに、申請書でも計画していたことであるが、ヒトの血栓性微小血管症の腎病理組織や動物モデルで糸球体内皮細胞障害を誘導して、内皮細胞におけるSmad1の発現を検討することにより、Smad1誘導欠損モデルを用いない研究に対して、当該研究費を使用予定である。
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