研究課題/領域番号 |
16K09615
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
貝森 淳哉 大阪大学, 医学系研究科, 寄附講座准教授 (70527697)
|
研究分担者 |
猪阪 善隆 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (00379166)
高原 史郎 大阪大学, 医学系研究科, 寄附講座教授 (70179547)
市丸 直嗣 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 寄附講座准教授 (70346211)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 家族性尿細管間質腎炎 / 次世代シークエンサー / 全エクソーム解析 / MUC1 / VNTR / 小胞体ストレス |
研究実績の概要 |
申請者が外来で遭遇した、家族性尿細管間質腎炎患者家系内の患者2名(父親と娘)及び健常人(母親)のゲノム遺伝子について次世代シークエンサーを用いたexome解析(トリオ解析)を行った。この解析の過程で、238個の遺伝子変異候補が見つかり、その中にMUC1 遺伝子VNTRの直前で、2塩基(AG)のframe shift deletionが起こっている事を見出した。この遺伝子異常は、家系内の5名の患者全てに認められ、他の健常者10名には認められなかった。この事から、本家系の疾患はMCKD1型家族性尿細管間質腎炎であり、遺伝子異常部位は、MUC1の全く新しい部位であることが判明した。2013年に報告された、MUC1遺伝子異常では、異常なアミノ酸配列の蛋白質が作成され、SPRCHLGPGHQAGPGLHRPP の反復配列を認めることが判明している。本研究の異常MUC1遺伝子からもほとんど同じようにこの反復配列が出来てくることが予想されることから、この反復配列が本疾患の病態形成に重要な役割を持つ事が示唆された。申請者らが見出した遺伝子以上配列を持つMUC1蛋白発現ベクターを用いて、変異蛋白の性質を解析したところ、正常蛋白に比べてグリコシレーションの量が極端に少なく、細胞質内で凝集することが判明した。また、患者尿中のエクソソーム内に異常MUC1蛋白の蓄積をウエスタン解析によって突き止め、この解析方法を用いれば、困難な遺伝子解析方法を取らなくとも疾患の診断が可能になる事を示した。これら一連の研究成果をまとめて、ヨーロッパ腎臓学会誌に掲載した。この報告は本邦初のADTKD-MUC1の報告になった。また、この研究成果は、9の海外科学ニュースサイトで取り上げられ、日本の科学新聞にも掲載された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
患者の遺伝子異常の研究成果をまとめて、ヨーロッパ腎臓学会誌に掲載して以降、変異MUC1蛋白発現transgenic mouseの作成を行って来た。2015年3月に作成された報告書によると、米国を中心としたKDIGO 研究チームが既に変異MUC1蛋白発現transgenic mouseの作成を行っていたが、今日になっても研究成果の報告はなかった。KDIGO 研究チームはヒトのMUC1 promoterに患者MUC1配列をつないだDNAを用いていた。申請者らは、mouse MUC1 promoterに患者MUC1 DNA配列をつないだものを用いた。hetero transgeneを含んだtransgenic mouseは、高齢になるまで観察しても異常を認めなかったが、homo transgeneを含んだmouseは、25%から10%の割合で成長遅延を認めた。正常のmouseの約半分体重であるこれら成長遅延を認めたmouseは、約4週間で死亡した。血液検査で、代謝性アシドーシス、低血糖、低カルシウム、低ナトリウム血症を認めた。腎臓の組織に細胞浸潤は認めなかった。また、消化管の浮腫、肝臓の発達異常を認めた。これらのphenotypeは、ヒト正常MUC1蛋白発現transgenic mouseでは認めなかった。これらのphenotypeは、現在のところどこからも発表されていない新しい結果である。
|
今後の研究の推進方策 |
変異MUC1蛋白発現transgenic homo mouseで認めたphenotypeを解析する。具体的には、体重変化の推移をより多くのmouseで確認する。代謝性アシドーシス、低カルシウム血症、低ナトリウム血漿の原因を調べるため、様々なtransporterの発現量、細胞内局在を検討する。変異MUC1蛋白発現量と体重の関係を検討する。この結果をまとめ、論文を投稿する。
|