研究課題/領域番号 |
16K09619
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
長井 幸二郎 徳島大学, 病院, 講師 (40542048)
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研究分担者 |
岸 誠司 徳島大学, 大学病院, 助教 (10519507)
冨永 辰也 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部, 准教授 (80425446)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | メサンギウム細胞 / 細胞内シグナル伝達 / 糖尿病性腎症 / 糸球体硬化 / 慢性腎臓病 |
研究実績の概要 |
in vitroではDynabeads method (Am J Pathol. 2002;161:799-805.)にてえられた糸球体から、メサンギウム細胞を以前より効率的に培養する方法を確立した。メサンギウム細胞が比較的容易に採取できていることも蛋白の発現などで確認できた。 in vivoではまずCre依存的TGF-β1過剰発現マウスをFoxd1-Creマウスと掛け合わせた。Foxd1-Creマウスは出生時にはメサンギウム細胞に(Development. 2014;141:346-54.)、生後1ヶ月の時点で糸球体全体にCre recombinaseが誘導されるため(J Clin Invest. 2016;126:1926-38.)、出生時糸球体形成へのメサンギウム細胞の役割を明確にするのに有用、かつタモキシフェン誘導型Foxd1-Creマウスとの掛け合わせにて起こる表現型を予測するのに効率的である。その掛け合わせにより、Foxd1-Cre陽性Cre依存的TGF-β1過剰発現マウスは胎生致死となることが確認できた。この所見から、タモキシフェン誘導型Foxd1-CreマウスとCre依存的TGF-β1過剰発現マウスの掛け合わせにてしか、メサンギウム細胞におけるTGF-β1過剰発現の表現型を検討できないことが明らかになり、目的とするタモキシフェン誘導型Foxd1-Cre陽性Cre依存的TGF-β1過剰発現マウスを作成した。生後1年まで生育し、表現型を観察中である。 また、Cre依存的安定化β-catenin 発現マウスにくわえて、Cre依存的β-catenin floxedマウスをJackson Laboratoryより入手しており、現在同様にタモキシフェン誘導型Foxd1-Creマウスとの掛け合わせを開始している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
in vitroにおいては上記の確立した方法にて複数のタモキシフェン誘導型Foxd1-Cre陽性Cre依存的TSC1 floxed マウスから採取したメサンギウム細胞の全てのラインにおいてTSC1の発現が低下しており、メサンギウム細胞が比較的容易に採取できていることが確認できたことは順調な成果であるが、まだ以下に記載するマウスのメサンギウム細胞が採取されていないため、今年度の課題となる。 in vivoにおいてタモキシフェン誘導型Foxd1-Cre マウスとCre依存的TGF-β1過剰発現マウスの掛け合わせは順調に進み、すでに解析に入っている。Cre依存的β-catenin floxedマウスも順調に生育し、タモキシフェン誘導型Foxd1-Cre陽性Cre依存的β-catenin floxedマウスはすでに存在しており、成長を待っている。逆にCre依存的安定化β-catenin 発現マウスは、掛け合わせにおいて、時間がかかっており、今年度の課題である。 また、下流のmTOR経路に対して抑制的に働き、細胞増殖や肥大の制御を行っているTSC1のfloxed マウスとタモキシフェン誘導型Foxd1-Creマウスを掛け合わせることによりメサンギウム細胞にてmTOR経路の活性化→ ribosomal protein S6のリン酸化をおこしたところTSC1が欠如した糸球体で collagen IVの発現増加やPAM 染色領域の増加がみられ、mTOR経路のみでもメサンギウム細胞にて細胞外基質の増加、形質変化を起こすことをin vivoにて初めて証明できたが、蛋白尿は顕著に排出されなかったことを論文として投稿し、そのrevisionに時間を要したものの、論文として採択された。よって総合的に考えると順調にきているとした。
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今後の研究の推進方策 |
in vivoにおいてはタモキシフェン誘導型Foxd1-CreマウスとCre依存的β-catenin floxedマウス、もしくはCre依存的安定化β-catenin 発現マウスは、掛け合わせを続行する。タモキシフェン誘導型Foxd1-Cre 陽性Cre依存的TGF-β1過剰発現マウスもふくめて、ヒト糖尿病性腎症の病態に関与した経過をたどるか生後4週、12週と1年の3ポイントでメサンギウム細胞増加、基質増加といった病理学的変化やcollagen I,II,IV,Fibronectinといった細胞外基質の定量的評価、臨床的には尿蛋白排出の検討を予定している。また糸球体を単離して、シグナル伝達経路の活性化を確認し、場合によりmicroarrayにより新たな治療目標を検索する。 in vitroにおいては上記の掛け合わせたマウスから遺伝子改変されたメサンギウム細胞を採取し、細胞増殖はMTT assay、アポトーシスはcleaved caspase-3の染色やwesternblottingにて、collagen I,II,IV,Fibronectinといった細胞外基質の変化はRNAを採取し、リアルタイムPCRにて評価する。 Wnt/β-catenin経路に関しては、Wnt2BなどのWnt proteinや共受容体FrizzledsとLRP5/6の発現はRNAを採取し、リアルタイムPCRにて経時的に定量し、スクリーニングする。target geneであるcyclin D1、c-myc、Runx2やLEF1、β-cateninの分解を調節するGSK-3βの発現やリン酸化をwesternblottingにて定量化する。またβ-catenin自体は免疫染色にて核内への移行の有無を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由としては論文報告したmTOR経路に関わる新規の遺伝子改変マウスを購入したものの、その納入が遅れたため、また、タモキシフェン誘導型Foxd1-CreマウスとCre依存的遺伝子改変マウスの掛け合わせにおけるタモキシフェン誘導とその後の胎児の育成のためのシステムがプロトコールの調整をへて、より確立され、以前より効率よく目的とするマウスがえられるようになってきたため、動物管理費がややへったためである。 使用計画として上記の動物が今年度納入されるため、その購入費にあてる。またメサンギウム細胞の発生時及び成体や病態における役割を明確にするためにFoxd1-Creマウス、タモキシフェン誘導型Foxd1-Creマウスの両方にCre依存的遺伝子改変マウスを掛け合わせるため、主には、in vivoにおいて、増加する動物の維持費とその解析に使用する予定である。また、in vitroにおいては、遺伝子改変マウスから目的とする遺伝子改変メサンギウム細胞をそれぞれ採取できるので、糸球体採取用のdynabeadsの購入、とくにWnt/β-catenin経路に関しては細胞の蛋白発現、シグナル発現、機能など解析する内容も増加しているため、あらたな抗体やreal time PCR用のプライマーの購入も必要となる。
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