DNA損傷は変異蛋白産生の原因となり場合によっては細胞の癌化や機能不全を引き起こし、細胞レベルでの老化との関連も知られているが、臓器機能低下につながる線維化との関係は明らかになっていない。そこで、我々はDNA損傷に対する防御機構であるDNA損傷応答機構(DDR)に注目し、DDRの最上流で機能するATM and Rad 3-related (ATR) に注目して研究を進めた。 そこでDDRによって維持されるゲノムDNAホメオスターシス維持機構が腎臓病に及ぼす影響を明らかにするため、動物モデル(遺伝子改変マウス)に種々の腎障害を作成し解析、ヒト腎生検検体を免疫染色にて解析、さらにヒト多能性幹細胞由来の腎臓オルガノイド解析、の3つの大きな実験をすることでを総合的に評価した。 マウスモデルにおいて、虚血再灌流、薬剤性さらに閉塞性の3種類の腎障害モデルを作成したところ、ATR機能欠失は結果として障害後の近位尿細管上皮細胞のDNA損傷を増幅させることが明らかとなった。その転帰として、急性腎障害は重症化し死亡率が上昇した。また生存した場合にも慢性腎臓病への移行が見られ、腎機能や腎予後と関連するパラメーターである腎間質線維化の増悪が認められた。 またヒト腎臓病でもDNA損傷の関与が明らかになり、ATRの活性化とDNA障害の程度は逆相関していることが明らかとなった。ヒト多能性幹細胞由来のオルガノイドでも同様の現象を確認できた。つまり、初期段階でのDNA障害に対する機構はより重度のDNA障害を防ぐべく機能しており、腎臓病に対して保護的に働いていると考えられた。つまりDDR調節が腎機能の治療標的となり得ると考えられた。 この結果は第61回日本腎臓学会総会、アメリカ腎臓学会にて報告し、現在学術誌に論文投稿中である。
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