研究課題/領域番号 |
16K09627
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
井上 勉 埼玉医科大学, 医学部, 准教授 (30406475)
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研究分担者 |
岡田 浩一 埼玉医科大学, 医学部, 教授 (60233342)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 腎線維化 / CCN2 / 慢性腎臓病 |
研究実績の概要 |
研究計画通りCCN2(旧称CTGF: connective tissue growth factor)の遺伝子改変モデルを用いて腎臓の線維化機序に関する研究を進めている。CreLoxPシステムを用いて、①whole CCN2の尿細管上皮細胞特異的ノックアウトマウス、②モジュールXX欠損CCN2発現トランスジェニックマウスを用いて、①片側尿管結紮モデル、②虚血再灌流モデル、③腎亜全摘モデルを作成し、病変の進行速度の変化とCCN2の特にモジュールXXが線維化に関わる機序に焦点を当てて解析中である。昨年度課題であった腎亜全摘モデルの術後短期死亡に関しては、CCN2遺伝子改変マウスにおける創傷治癒過程での線維化の遅延が原因であることが判明した。抗線維化形質として我々の予想通りではあったが、モデルとしては望ましくないため、結紮範囲を縮小するなどの工夫を試みた。しかし損傷範囲を減少するとマウスでは慢性期の線維化程度が大きく損なわれてしまう。そこで手技は当初の予定通りとし、マウスの系統を変更することで安定したモデル作成を実現する方針とした。片側尿管結紮モデル、虚血再灌流モデルについては予定通り全サンプルを採取完了することができた。既に少数サンプルでの検討は終了していたが、予定通り全サンプルを対象にRT-PCR、Western blottingを用いて、細胞外基質、炎症性サイトカイン、線維化に関わるサイトカインの産生量をmRNAレベルで、幾つかの細胞内シグナル伝達系に関する検討をリン酸化シグナルの変化で検討を開始している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成28年度に生じた腎亜全摘モデルにおけるモデル作成の歩留まりの悪さが影響して、同モデル作成に関しては大きな遅延を余儀なくされている。手技自体の工夫では解決が困難であり、現在はマウスのバックグラウンド(遺伝子的な背景、系統)の変更によって問題解決を試みている。しかし死亡例の詳細な剖検の結果、我々が予想していた抗線維化形質が同モデルの作成を困難にしている主因であることが判明し、全体の実験計画としては他のモデルの作成と解析を中心に滞りなく進んでいる。動物愛護の観点にも配慮して、死亡例からも最大限の知見を得て、早急に学問的に有意義な実験系を確立するように日々務めている最中である。以上の状況から、研究全体としては概ね計画通りに進行しているものの(しかも当初の予想通りの結果が得られはじめている)、一部の計画には大きな遅れを生じている。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画の内容自体に変更はない。今年度の主な計画は以下のとおりである。 ・片側尿管結紮モデルの検体を用いて、CCN2遺伝子改変の影響の詳細を検討する。組織学的計測の結果、CCN2の線維化促進形質はモジュールIVが概ね担っていることが明らかになった。既に炎症関連や線維化関連のサイトカインの発現比較を開始しており、有意義な結果を得て学会等で報告をはじめている。 ・腎虚血再灌流モデルについて、計画通り昨年度中に検体の採取は終了した。組織学的計測の結果、上記の片側尿管結紮モデルと同様、両方のCCN2遺伝子改変マウスで腎線維化の進行遅延が明らかとなった。CCN2の線維化促進作用はモデル横断的な効果であることが明らかとなった。各種遺伝子発現の検討を開始する予定である。 ・腎亜全摘モデルに関しては、マウスの遺伝的背景の変更によって評価に耐えうるモデルを作成できると予測している。ヒトの腎硬化症や慢性糸球体腎炎で、腎機能が緩徐に低下する臨床経過を模倣する理想的な動物モデルであり、当研究室としては同モデルの作成にも注力していく予定である。 ・更に今年度以降は、CCN2によって動員される細胞内シグナル伝達系に関する検討を進める予定である。現在、whole kidneyのサンプルを用いて検討しているが、過去に報告があるwnt/b-cat系、Smads系、MAPK系について網羅的な検討を行うだけでは無く、CCN2のモジュール構造から関与が予測されているintegrin関連のシグナル伝達系に関しても検討する追加予定である。
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