研究課題/領域番号 |
16K09629
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
澤田 佳一郎 東海大学, 医学部, 客員講師 (10420952)
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研究分担者 |
深川 雅史 東海大学, 医学部, 教授 (00211516)
高橋 浩雄 東海大学, 医学部, 講師 (00410093)
金井 厳太 東海大学, 医学部, 講師 (00535221)
和田 健彦 東海大学, 医学部, 准教授 (90447409)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 足細胞 |
研究実績の概要 |
腎糸球体足細胞傷害は糸球体硬化を介して腎機能低下の原因となるため、その機序を解明することは非常に有用である。一方、ビタミンD はカルシウム代謝の主要な調節因子であるのみならず、多様な生体機能を有することが明らかになっている。これまで動物実験や臨床研究でその足細胞保護作用・抗蛋白尿作用が示されているが、その詳細な機序は明らかではない。そこで本研究課題は、従来の糸球体足細胞傷害研究を基盤として、糖尿病に関連する様々な代謝性ストレスが蛋白尿を惹起・増悪する機構、特にビタミンD とその受容体が関与するシグナル伝達経路の異常を明らかにし、それを利用した蛋白尿抑制・糸球体硬化抑制法の基盤を構築することを目指す。この研究の成果により腎不全患者の最大の集団である糖尿病関連慢性腎臓病患者の治療選択肢の拡充・予後改善が期待される。 今年度の研究実績の概要は以下のとおりである。 Ⅰ.糖尿病モデル動物を用いたビタミンDによる腎保護作用の検討:糖尿病マウスの系で活性型ビタミンDの作用を検討した。非投与群と比較して、活性型ビタミンD投与群では生存率、尿中のクレアチニン(μg)/アルブミン(mg)量比が投与量に比例し改善されており、活性型ビタミンDが腎機能を保護することで糖尿病の進行を抑制している可能性が推測された。 Ⅱ.糖尿病関連ストレスによる培養足細胞形質変化・障害の評価:TGFβ1存在下における培養足細胞は、接着力、移動能も対照と比較して有意に増加した。各種インテグリンやスリット膜構成分子の発現も亢進されており、細胞-細胞/-基質間の大きな構造変化がおきていることが伺われた。 Ⅲ.糖尿病関連ストレスに対するビタミンD受容体下流のシグナル伝達の変化に関する検討:足細胞をTGFβ存在下で培養することでWntの発現が促進され、糖尿病ストレス下における足細胞でのシグナル伝達経路の変化が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度の糖尿病ラットでの実験結果が得られなかったので、急遽マウスでやり直したが、良い結果が得られている。培養足細胞を用いた研究も糖尿病環境での細胞の初期反応を捉えており、以下のように進展している。 Ⅰ.糖尿病モデル動物を用いたビタミンDによる腎保護作用の検討:糖尿病マウスの系で活性型ビタミンDの作用を検討した。ビタミンD投与群には、パリカルシトールを1個体当たり5ng、50ng、500ngを隔日で腹腔内投与し、対照群には生食を投与した。10週目での生存率は対照群17%、ビタミンD-5ng、-50ng、-500ng投与群ではそれぞれ30%、50%、44%で、活性型ビタミンDの投与が糖尿病の進行を抑制していることが推測された。尿中のクレアチニン(μg)/アルブミン(mg)量比は対照群は115、ビタミンD-5ng、-50ng、-500ng投与群ではそれぞれ75、71、43で、活性型ビタミンDが濃度依存的に腎機能を保護していることが示唆された。 Ⅱ.糖尿病関連ストレスによる培養足細胞形質変化・障害の評価:TGFβ1存在下における培養足細胞の形質変化を検討した。培養足細胞を1ng/mlのTGFβ存在下で培養すると接着力は対照の約2.5倍になり、移動能も対象と比較して有意に増加した。基質接着分子のターンオーバーの活性化が推測され、実際にインテグリン-α3、-β1の発現が亢進されていた。スリット膜構成分子であるCD2AP、FAT1、Tjp1の発現も1ng/mlのTGFβ存在下で促進されており、細胞-細胞間、細胞-基質間の大きな構造変化がおきていることが伺われた。 Ⅲ.糖尿病関連ストレスに対するビタミンD受容体下流のシグナル伝達の変化に関する検討:足細胞株を1ng/mlのTGFβ存在下で培養するとWntの発現が亢進され、糖尿病ストレス下における足細胞でのシグナル伝達経路の変化が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
I. 核内受容体としてのビタミンD受容体による転写制御機構の検討:糖尿病ストレス環境下におけるビタミンD 受容体の足細胞保護作用に核内受容体としてのゲノム作用が関連している可能性が考えられる。クロマチン免疫沈降法などで標的遺伝子の検索を行い、当該遺伝子のビタミンD 受容体による転写調節機構につきmutagenesis, ChIP-PCR などの手法を用いて検討を行う。 II. 糖尿病関連代謝性ストレスに対するビタミンD・ビタミンD受容体の役割に関する検討:温度感受性培養足細胞に対してRNA 干渉法等によりビタミンD 受容体のノックダウンを行い、in vitroの糖尿病ストレス環境下におけるビタミンD 受容体の保護的効果の有無とその機序について検討を行う。足細胞の形態学的変化や細胞骨格の変化、細胞死等への影響や、細胞周期調節蛋白群やシグナル伝達関連分子の発現変化について検討を加える。 III.ビタミンD および足細胞ビタミンD 受容体の役割に関する検討-足細胞特異的ビタミンD受容体欠失マウスの作製:前年度明らかになった糖尿病マウスの系でのビタミンDによる腎保護作用について詳細な検討を行う。さらに余裕があれば、本学ですでに所有しているpodocin-Cre マウスを用いて、足細胞特異的にビタミンD 受容体を欠損するマウスの作製を試みる。このマウスにストレプトゾトシンによる糖尿病誘導、種々の腎炎の誘導を行い、蛋白尿や腎機能の変化を経時的に観察する。この実験により、ビタミンD・ビタミンD 受容体による足細胞保護作用がより詳細に評価できるものと期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
使用動物をラットからマウスへ変更したため、動物の購入費用と飼育管理費などに余剰金が生じた。次年度の物品費などに組み入れて使用する予定である。
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