Endocan (End)は内皮由来の可溶性糖タンパク質複合体である。Endの血中レベルは敗血症の重症度と相関し、内皮障害の信頼できるバイオマーカと考えられている。慢性腎臓病患者では、End血中濃度が増加し、その増加は心血管イベント発症と相関することが報告されている。Endは炎症性サイトカインで発現上昇することが報告されているが、腎疾患進展に重要な内皮機能低下との関係は明らかではない。今年度、内皮機能低下に重要な一酸化窒素 (NO) 抑制シグナルが、Endの発現に及ぼす影響を検討した。ヒト臍帯静脈内皮細胞を用い、①NO donor (1 μM NOC18)、②NOS阻害薬 (5 mM L-NAME)、③SGC inhibitor (5 μM LY83583)、④PKG inhibitor (500 nM KT5823)、で24時間刺激を行い、Endの発現変化を検討した。また、転写調節部位を特定するため、Encocanプロモーター (-4000~+50 bp) 下流にLuciferase遺伝子を挿入し、レポーターアッセイを行った。PKG inhibitor ではEnd mRNA発現は増加せず、SGC inhibitorでのみ増加した。SGC inhibitorはスパーオキサイドの産生を増加させるため、酸化ストレス亢進がEnd発現に関与していると考えられた。レポーターアッセイでEnd遺伝子発現には-500~-1000 bp領域でpositiveに、-2000~-4000 bp領域でnegativeに発現調整している領域を認めた。ChIPアッセイで、ETSとNFkBが正に、Hhexが負にEndの遺伝子発現に働いていることを確認した。End発現増加には内皮へのNOシグナル低下よりも酸化ストレス亢進が大きく影響している。Endは糖尿病性腎症の治療標的になるかを今後検討する必要がある。
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