研究課題
遺伝性高血圧疾患である偽性低アルドステロン症II型(PHAII)において、原因遺伝子であるKLHL3とCullin3はユビキチンE3リガーゼを形成し、腎臓遠位尿細管でWNK1, WNK4を捉えて分解することでNCCを制御する。当該年度においてはKLHL3-/-マウスを作成、解析し、KLHL3の局在と生体内での機能につき検討した。内因性のKLHL3プロモーターの制御下にβgalを発現するKLHL3-/-マウスを作成、解析したところ、βgalのWestern blottingにおいて、KLHL3は腎臓、脳、眼、精巣、心臓で発現していることが明らかになった。特に脳と腎臓において強い発現が認められた。脳では海馬に強くLacZ染色を認めた。また、KLHL3-/-マウスの腎臓では、WNK1とWNK4の分解不良による発現増加を認め、PHAIIの形質を呈したが、KLHL3+/-マウスではWNKシグナル系の過剰亢進は認めなかった。細胞実験においては、野生型KLHL3は互いに結合して二量体を形成するが、野生型KLHL3と疾患変異型KLHL3は結合せず、二量体形成が阻害された。この結果から、KLHL3は生体において多臓器にわたり発現していることが判明した。今回作成したKLHL3-/-マウスは、腎臓以外の臓器におけるKLHL3の機能を探るのに有用であると考えられる。また、PHAII発症の病態生理において、KLHL3の変異によるWNKシグナルの制御の異常のメカニズムとしてはKLHL3の発現量ではなく、疾患変異型KLHL3の質的変化によるdominant negative効果が重要であることが明らかになった。KLHL3の二量体形成は、KLHL3の機能における重要なメカニズムの一端である可能性があると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題の当該年度の研究目的としてKLHL/Cul3/WNKシグナル制御メカニズムの解明、およびKLHL-Cullin3複合体によるWNKキナーゼ分解障害による病態の生体内での検討をあげていた。当該年度においてはまず、KLHL3のノックアウトマウスの作成に成功し、PHAIIの形質の再現に成功した。そして、このモデル動物を用いて、KLHL3の全身臓器での発現部位についての新知見を得た。さらにKLHL3変異によるPHAII発症メカニズムについての重要な新知見を得ることができた。
(1) 新規KLHL/Cul3/WNKシグナル制御メカニズムの解明:KLHL3とKLHL2が腎臓遠位尿細管と血管平滑筋においてどのように発現制御されているかを明らかにする。本シグナル系の本質である塩分摂取との関連を見るために、塩分負荷・塩分制限、アンジオテンシンII・アルドステロン・バソプレシンなどの液性因子の負荷を行ったマウスにおいて腎臓でのKLHL3, 血管平滑筋でのKLHL2、さらにそれに付随するWNKキナーゼの変化を検討する。また、メタボリック症候群においてKLHL3が減少して、WNKタンパク分解が抑制されることが、肥満における塩分感受性高血圧のメカニズムの一つであることを明らかにする。さらに血管平滑筋においてKLHL / Cul3 / WNKシステムを介した塩分感受性亢進のメカニズムを明らかにする。(2) KLHL-Cullin3複合体によるWNKキナーゼ分解障害による病態の生体内での検討:WNKキナーゼ分解障害が関わる病態を生体内で明らかにするためには、病態モデルの作成と解析が不可欠である。KLHL3とCullin3のコンディショナルノックアウトマウス、KLHL2ノックアウトマウス、Cullin3疾患遺伝子変異ノックインマウスなどの遺伝子改変マウスの作成と解析を進める。(3) KLHL / Cul3 / WNKシグナルの各臓器での働きの解明:血圧調節以外の病態におけるWNKシグナルの重要性が明らかになりつつある。WNKキナーゼは腎臓と血管平滑筋以外にも脂肪細胞、脳・神経、消化管上皮、心筋などに発現しており、これらの臓器の機能や関連する疾患におけるWNKシグナル系の関与を明らかにしていく。
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Mol Cell Biol.
巻: 37 ページ: -
10.1128/MCB.00508-16