研究課題
当該年度においては:(1) KLHL-Cullin3複合体によるWNKキナーゼ分解障害による病態の生体内での検討 (2) KLHL3/Cul3/WNKシグナルの各臓器での働きの解明、を行った。(1) KLHL3ノックアウトマウスを作製、解析した。KLHL3-/-マウスはPHAII様のphenotypeを示したが、KLHL3+/-マウスは示さなかった。このことからKLHL3変異によって起こる常染色体優性のPHAIIの病態形成には変異KLHL3タンパクのdominant negative効果が必要であることが示された。さらにこのdominant negative効果の発症メカニズムには、KLHL3の二量体形成が関与していることも示した。また、KLHL2ノックアウトマウスの作成、解析も行った。KLHL2-/-マウスはPHAII様phenotypeを示さなかった。KLHL2の発現部位は腎臓髄質に限局しており、KLHL2-/-マウスでは腎臓髄質においてWNK4の発現が増加していた。このことから、KLHL2は腎臓髄質特異的なWNKシグナル制御因子であることが示された。(2) WNK4ノックアウトマウスを作製、解析した。WNK4-/-マウスが肥満症に対して抵抗性を有することを見出し、WNK4が脂肪細胞の分化誘導の調節因子であることを発見した。また、骨格筋細胞の分化の過程でNKCC1が誘導されること、そしてこの過程はループ利尿薬により阻害されること、さらにはループ利尿薬が運動による筋線維の肥大化を抑制することも示した。このことから、NKCC1は筋肉の分化、運動誘発性肥大に重要な役割を果たしていることが示された。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題の当該年度の目標として:(1) 新規KLHL3/Cul3/WNKシグナル制御メカニズムの解明 (2) KLHL-Cullin3複合体によるWNKキナーゼ分解障害による病態の生体内での検討 (3) KLHL3/Cul3/WNKシグナルの各臓器での働きの解明、を挙げていた。当該年度においてはKLHL3、KLHL2、およびWNK4のノックアウトマウスの作成に成功し、KLHL3とKLHL2によるWNKシグナルの制御メカニズムについて重要な新知見を得ることができた。また腎臓以外の、脂肪組織や筋肉におけるWNKシグナル系の機能についても新規発見を行った。
(1) 新規KLHL3/Cul3/WNKシグナル制御メカニズムの解明:KLHL3とKLHL2が腎臓と血管平滑筋においてどのように発現制御されているかを明らかにする。塩分摂取との関連をみるために、塩分負荷・塩分制限、アンジオテンシンII・アルドステロン・バソプレシンなどの液性因子の負荷を行い、腎臓・血管平滑筋におけるKLHL3・KLHL2・WNKキナーゼの変化を検討する(2) KLHL-Cullin3複合体によるWNKキナーゼ分解障害による病態の生体内での検討 :WNKキナーゼ分解障害が関わる病態を生体内で明らかにするためには病態モデルの作成と解析が不可欠である。引き続き、KLHL3・Cullin3のコンディショナルノックアウトマウス、Cullin3疾患起因性遺伝子変異ノックインマウスなどの遺伝子改変マウスの作成と解析を進める(3) KLHL3/Cul3/WNKシグナルの各臓器での働きの解明:血圧調整以外の病態におけるWNKシグナルの重要性が明らかになりつつある。WNKキナーゼは腎臓と血管平滑筋以外にも脂肪細胞、脳・神経、消化管上皮、心筋、免疫細胞などにも発現しており、これらの臓器における機能・制御機構・疾患との関わりについて、WNKシグナル系の関与を明らかにしていく。
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