研究課題
我々は、全身の細胞膜に存在するカルシウムポンプ(PMCA1)をコードするATP2B1遺伝子がヒト本態性高血圧と関連することをゲノムワイド解析によって証明してきた。本遺伝子の血管平滑筋特異的ノックアウトマウスでは、血管平滑筋細胞におけるPMCA1の発現が低下し、細胞内から細胞外へのカルシウムイオンの汲み出し力が低下することにより、血管平滑筋細胞内カルシウム濃度が上昇することを証明した。本マウスでは、血管の収縮力が亢進しており、本態性高血圧の重要なモデル動物と考えられた。そこで、本マウスに対して種々の降圧薬を投与し、降圧薬に対する反応性を検討した。降圧薬の単会投与東洋に対する反応性は、カルシウム拮抗薬に対して最もよく、コントロールマウスと比較して優位に降圧度が異なっていた。しかし、半減期の短いカルシウム拮抗薬にはよく反応したが、半減期の最も長いアムロジピンに対する反応はコントロールと差がなかった。そこで、本薬剤を長期間投与して比較したところ、アンジオテンシンII受容体拮抗薬と比較して、やはりカルシウム拮抗薬であるアムロジピンは、本血管壁特異的ATP2B1KOマウスにおいて、優位に降圧効果が高かった。これらの結果からATP2B1が過剰に発現する状態では、カルシウム拮抗薬が最も効果的であり、テーラーメイド医療の重要なエビデンスになると思われた(HT Res 2018)。一方、全身のATP2B1の発現量が少ない全身ヘテロKOマウスも、血管平滑筋細胞内Ca濃度が上昇するとともに血管の収集が亢進することを明らかにしてきた。特に内皮細胞においてeNOS発現量を低下させるとともに、血管収縮力が更新することを明らかにした。本マウスでは、血清カルシウム濃度が低下していることが低下していることがわかり、現在、そのメカニズムと意義を検討中である。さらに本遺伝子過剰発現マウスの意義を検討中である。
2: おおむね順調に進展している
血管平滑筋特異的ATP2B1ノックアウトマウスを用いた研究で、降圧薬の短期投与した実験、慢性投与した実験を行い、本マウスがカルシウム拮抗薬に特異的に降圧効果が高いことを明らかにした。特に単会投与では半減期の短いCCBでのみ優位に血圧が低下したが、半減期の長い降圧薬では慢性投与によりその効果が明らかになった。そのメカニズムの原因として、本ノックアウトマウスでは、血管平滑筋細胞のL型カルシウムチャンネルがコントロールマウスと比較して3~4倍も発現量(mRNAおよび蛋白レベルで)が増大しており、本遺伝子発現の低下が、ジヒドロピリジン系のカルシウムチャンネル発現量に大きく影響するとともに、カルシウム拮抗薬が特異的に効果を示すことが明らかにすることができた。一方で、本マウスではあまり一酸化窒素(NO)系が動いておらず、全身のヘテロノックアウトマウスとは病態が異なることが明らかになった。本研究の結果は、2018年2月号のHypertension Research誌に掲載され、本号の注目論文として雑誌およびweb上で紹介された。本研究結果は、本態性高血圧の研究において大きなインパクトを有するとともに、高血圧のテーラーメイドに重要なエビデンスとなると考えられた。また、全身ATP2B1ヘテロマウスノックアウトマウスのカルシウム代謝に対する新しい知見がすでに明らかになりつつある。本年度中に論文として発表できる予定である。
1)血管平滑筋特異的ATP2B1過剰発現マウスに関する生理的、分子生物的意義を明らかにして論文化する。2)血管平滑筋特異的ATP2B1ノックアウトマウスに関する研究として、食塩負荷などによる効果を明らかにする。3)尿細管特異的ATP2B1ノックアウトマウスと血圧、および病態生理的な意義を明らかにし、論文化する。4)全身ATP2B1ヘテロノックアウトマウスにおけるカルシウム代謝に関連する重要データの論文公表を行う。5)本研究の人への応用を検討開始する。
平成30年度のマウス飼育費用等が必要であり、平成29年度の予算を平成30年度に回している。本研究を継続するためには、さらなる資金が必要であり、他の研究費の獲得にも尽力している。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件)
Hypertens Research
巻: 41 ページ: 80-87
10.1038/hr.2017.92
Physiol Rep
巻: 5 ページ: e13316
10.14814/phy2.13316