我々は、全身の細胞膜に存在するカルシウムポンプ(PMCA1)をコードするATP2B1遺伝子がヒト本態性高血圧と関連することをゲノムワイド解析によって証明してきた。本遺伝子の血管平滑筋特異的ノックアウトマウスでは、血管平滑筋細胞におけるPMCA1の発現が低下し、細胞内から細胞外へのカルシウムイオンの汲み出し力が低下することにより、血管平滑筋細胞内カルシウム濃度が上昇することを証明した。本マウスでは、血管の収縮力が亢進しており、本態性高血圧の重要なモデル動物と考えられた。そこで、本マウスの降圧薬に対する反応性を確認し、ATP2B1遺伝子発現とカルシウム拮抗薬の特異的反応性について報告した(HT Res 2018)。 一方、全身のATP2B1の発現量が少ない全身ヘテロKOマウスも、血管平滑筋細胞内Ca濃度が上昇察せ血管収集が亢進するとともに、内皮細胞でのeNOS発現量を低下させて血管収縮力が亢進することを明らかにしてきた。しかし、全身ヘテロKOマウスのCa代謝に対する効果は明らかでなかった。そこで、我々は、本マウスを用いて、血清、尿中Ca濃度の変動や骨における骨代謝に関する検討を行った。Caの吸収、排泄の中心である腎臓および小腸におけるATP2B1発現は低下していた。尿中のCa排泄量は、コントロールマウスよりも優位に増加しており、血清Ca濃度は低下していた。このように低Ca血症の状態でありながら、血清の副甲状腺ホルモンは、本マウスで優位に低下していた。血清リンやFGF23濃度、活性化VitD3濃度には有意な変動を認めなかったが、骨塩量の有意な増加を認めた。これらの結果から、ATP2B1発現量を全身で低下させた場合には、副甲状腺ホルモンの分泌を低下させることにより、Ca代謝に影響を与えるとともに、NO発現へ影響を与えて血圧上昇に関連する可能性が示唆された(HT Res 2018)。
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