研究課題/領域番号 |
16K09651
|
研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
美馬 亨 和歌山県立医科大学, 医学部, 講師 (30373517)
|
研究分担者 |
重松 隆 和歌山県立医科大学, 医学部, 教授 (30187348)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 線維芽細胞増殖因子23 / Klotho / エリスロポエチン / 腎尿細管細胞 / 相互作用 |
研究実績の概要 |
線維芽細胞増殖因子(FGF)23は、そのリガンドであるKlothoを発現している腎尿細管細胞に働きリン利尿を促すのみならずKlothoを発現しているB細胞にも関与することを、我々はこれまでに明らかにしてきた。このようにFGF23はリン利尿以外にも生物学的役割を持つことが想定される。そこで、B細胞と腎尿細管細胞での生物学的役割の相違を検討するため、DNAマイクロアレイを用いて網羅的にFGF23刺激による遺伝子発現変動について解析することを計画した。まず、マウスの腎尿細管細胞株mIMCD3にFGF23刺激を行い、無刺激のmIMCD3細胞株より抽出したRNAをコントロールとして遺伝子発現変動をDNAマイクロアレイで解析した。その結果、有意に遺伝子発現が上昇した3分子と発現が低下した12分子を同定した。発現が低下した12分子の発現を調節する可能性がある転写因子について生体情報解析を行った。その結果、エリスロポエチンの細胞内シグナル伝達分子であるSTAT1が描出されてきた。そこで、エリスロポエチンとFGF23の相互作用を検討するため、エリスロポエチン1U/mL、FGF23 10ng/mL単独および両者で腎尿細管細胞株を刺激し、遺伝子発現についてTaqMan PCR法を用いて定量的に解析した。その結果、エリスロポエチン刺激でこの12分子中10分子で遺伝子発現が誘導され、その発現誘導はFGF23存在下で有意に抑制された。この抑制効果は、STAT1のウェスタンブロット解析でFGF23存在下でSTAT1のリン酸化に影響がなかったことより、FGF23はエリスロポエチンによるSTAT1のリン酸化に影響しないことが示唆された。これらのことから、腎尿細管細胞においてFGF23とエリスロポエチンはクロストークしている可能性が考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績で報告したように、腎尿細管細胞にリン利尿を促すFGF23と腎不全時に腎保護作用を有するエリスロポエチンという腎臓にとって重要な2分子が相互作用している新たな知見を得ることができた。現在、論文を作成中で、近々投稿予定である。また、2017年の第60回日本腎臓学会学術総会に演題として採用され、発表することが決まっている。したがって、研究開始1年としては順調に進捗していると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
今回、FGF23がエリスロポエチンの発現に対する影響を検討したが、逆にエリスロポエチンがFGF23で誘導される分子に対して相互作用するか否かについて今後検討する予定である。さらに、マイクロアレイ解析よりFGF23で発現上昇した分子にかかわる転写因子としてpPARγが描出されてきている。pPARγは活性型ビタミンD刺激により活性化される転写因子であるので、活性型ビタミンDとの相互作用が考えられる。そこで、腎尿細管細胞にビタミンD受容体の発現を抑制する遺伝子を導入し、活性型ビタミンDが欠乏した状態(末期腎不全)を作り出し、FGF23が低下した作用を回復できるか検討する。また、マウスB細胞株に対して腎尿細管細胞と同様にマイクロアレイで網羅的に遺伝子変動を解析した結果が既にあるので、腎尿細管細胞との相違を今後解析する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
エリスロポエチンは溶解すると、-80度に保存しても3か月で生理活性を失うため、3月時に早急に必要とする試薬がなかったこともあり、4月以降に新規にエリスロポエチンを購入する必要があったので購入費の一部に充てるため。
|
次年度使用額の使用計画 |
4月中にエリスロポエチンで誘導された分子について、FGF23刺激による抑制がFGF23の細胞内伝達分子であるERKを介するか否かを検討するためERK阻害薬存在下でエリスロポエチンによる発現誘導に対するFGF23による抑制が回復するか否かを検討する予定である。
|