研究課題
RALES試験(N Engl J Med, 1999)に代表されるように、心血管リスクにおけるミネラルコルチコイド受容対(MR)拮抗薬の有益性を示した大規模臨床研究の成果がこれまで数多く報告され、近年はその流れを受けて、心筋や血管平滑筋におけるMRの機能について、組織特異的遺伝子改変モデルを用いた研究が海外で進められてきた。そこで明らかになったことは、これらの非上皮性組織におけるMRは、組織の炎症や線維化・リモデリングに関与し、その機序を介して臓器障害をもたらす一方、血圧調節に対する寄与は軽微なものであるという結果であった。腸管は、腎尿細管に並ぶMR発現量の高い上皮性組織であり、主にNa動態を調節すると考えられていることから、腸管MRも、腎尿細管MRに並んで血圧調節に対する寄与が高いことが予想されたが、これまで組織特異的遺伝子改変モデルを用いた腸管MR機能の解析は、報告がなかった。本研究では、villin-CreマウスとMR-floxマウスの交配により、腸管上皮特異的遺伝子欠損マウスを作成し、その表現型解析を行った。本マウスでは、まず通常食下の検討で、結腸上皮においてNa吸収を担う上皮性Naチャネル(ENaC)βおよびγの発現が低下し、便中Na排泄の増加が認められた。この際、腎臓においては代償性にNa再吸収の亢進が生じており、本マウスの尿中Na排泄は低下していた。さらに本マウスにおいて、週齢10~13週の期間にDOCA-salt負荷を行ったところ、wild-typeマウスに比べ血圧上昇が50%程度抑制され、このことから、ミネラルコルチコイド誘発性の血圧上昇において、腸管MRが約50%の寄与を有していることが示された。本研究により、血圧調節臓器としての腸管の重要性が新たに示され、今後の高血圧研究において、新たな視点を与える成果として、現在論文報告に向けてデータをまとめている。
2: おおむね順調に進展している
上述のとおり、本解析に必要なモデルマウスの作出、およびその解析は順調に進んでいる。学会でも高い評価を受けており、現在論文投稿の準備をしている。
本研究に用いたマウスは、若齢期からMR遺伝子が欠損しているモデルマウスであるが、タモキシフェン(TAM)誘導型villin-CreマウスとMR-floxマウスを交配した誘導型腸管上皮特異的MR遺伝子欠損マウスも作出が完了しており、今後は成人期で腸管MRが欠損した再の表現型解析も行っていく。またミネラルコルチコイド高血圧研究における腸管の役割という新たな視点を本研究で得られたことから、現在教室内で研究を進めている新規MRコリプレッサーについても、腸管上皮特異的遺伝子欠損マウスを作成し、腸管MRを活性化した際の表現型について、解析を行っていく予定である。
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