研究課題/領域番号 |
16K09656
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
栗原 勲 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (90338038)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ミネラルコルチコイド受容体(MR) / 腸管 / 上皮性Naチャネル(ENaC) / 高血圧 |
研究実績の概要 |
本研究では、心血管リスク管理における腸管ミネラルコルチコイド受容体(MR)の意義を解明するため、MR-floxマウスとvillin-Creマウスにより腸管特異的MR欠損マウス(腸管MR-KO)を作成し、その表現型解析を行った。前年度の検討において、controlマウスで見られるDOCA/salt誘発性の血圧上昇が、腸管MR-KOでは50%抑制されることを確認しており、大腸ENaCβおよびγのDOCA誘導性発現上昇が抑制されていたことから、腸管からのNa吸収の低下が血圧上昇を抑制していると考えられた。また本モデルマウスは、高塩食下(8% NaCl)で飼育した場合(5週齢から13週齢まで)、controlマウス・腸管MR-KOともに血圧上昇は示さず、2群間に有意な血圧の差を認めなかったが、低塩食下(0.025% NaCl)で飼育した場合(同じく5週齢から13週齢まで)、血圧がcontrol群98.4±3.5mmHg, KO群82.6±2.4mmHg(P=0.014)と腸管MR-KOで有意な低下を認めた。体重にもcontrol群27.4±0.8g, KO群17.4±0.3g(P=0.002)と有意な差があり、また血漿アルドステロン値はcontrol群982.0±157.7pg/mL, KO群17587.5±3477.0pg/mL(P<0.001)であり、腸管MR-KOで著明な上昇を認めた。腸管MR-KOでは、高アルドステロン血症にもかかわらず大腸ENaCβおよびγの上昇は見られず、便中Na排泄の亢進が見られたことから、腸管からのNa吸収障害が体重減少(体液量減少)、低血圧の原因と考えられた。この低塩食による変化は、既報にある腸管特異的ENaCα欠損マウスの表現型(J Am Soc Nephrol, 2014)に比して顕著であり、ENaC発現制御の上流に位置するMRのNa動態調節における機能が極めて重要であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
腸管MRの心血管リスク管理における意義という観点から、当初は高血圧モデルにおける表現型に注目して解析を進めていたが、論文投稿・審査の過程で、低塩分食負荷も行うというヒントを得て追加解析を行い、腸管MRの血圧調節における本質を明らかにすることができたと考えている。本研究成果は、J Am Heart Assocにacceptされている(in press)。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画立案当初は、タモキシフェン誘導型villin-Creマウスを用いて、心血管リスク管理における腸管MR機能抑制のベネフィットを、時相を変えて評価する予定であったが、予備検討の過程で、タモキシフェンの投薬自体がvillin-Cre発現とは無関係にMR活性を変化させてしまうことが確認されたため、本モデルマウスを用いた検討は、結果の解釈が困難になると考え、今年度はやや方向修正することを考えている。これまで当教室では、塩分摂取量がcontrol食と同等になる特殊高脂肪食資料を作成し、それにより血中アルドステロン値の上昇を伴わずMR活性上昇およびそれに伴う臓器障害をもたらすマウスモデルを確立しており、この負荷法を用いて、腸管MRの心血管リスク管理における寄与を検討していく。腸管MRに特異的な機能を明らかにするため、対照群には、controlマウスだけでなく、腎尿細管特異的MR欠損マウスも置くことを考えている。3群に対し、並行して上記の高脂肪食負荷を行い、臓器障害の進展について評価を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
論文掲載料を想定して残金を残していたが、論文掲載の支払いが次年度に持ち越しとなったため。
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