研究課題
透析患者において腎性貧血の管理において鉄の投与は主要な治療法のひとつであるが、同時に酸化的ストレスを増強することなどから、動脈硬化を促進する可能性がある。我々は、鉄が血管内皮細胞の石灰化の因子となりうることを見出している。しかしながら、慢性腎不全における石灰化の主要な場は血管中膜細胞(メンケベルグ型動脈硬化)である。すでに予備的な解析で、鉄負荷が血管内皮細胞に石灰化を炎症ストレスと共に誘導し、マイクロアレイにて様々なサイトカイン等がこのプロセスに関わっていることを見出している。そこで、この鉄負荷が血管中膜細胞の石灰化に影響を与えるかどうか、またどのような機序で血管中膜細胞に石灰化を惹起させるかを明らかにし、新規の動脈硬化抑制の治療法を確立してくことを目的とする。我々のグループでは、既に培養大動脈血管中膜細胞(血管平滑筋細胞)の培養液中に鉄を添加刺激と炎症状態を惹起するようにTGFβ刺激を行って石灰化を惹起できるかどうかの予備実験を行っている。この予備実験で、低濃度の鉄刺激とTGFβ刺激の共刺激で石灰化は増強し、高濃度の鉄刺激では単独でも石灰化を惹起することを見出している。このことは、透析患者において鉄投与を安易に行うと石灰化を増強することを強く示唆している。この鉄による血管中膜細胞における石灰化促進に関して、既報が無いためにどの細胞内シグナルが寄与しているかを解明することは難しい。そのため、鉄刺激を行ったDay1と刺激を行っていないものとの比較をアジレント社のMicroarrayを用いて網羅的に検討を行った。Fold Change45倍以上でも、様々な遺伝子が動いていることが明らかになっている。これらを踏まえて、鉄負荷が血管中膜細胞の石灰化にどのような影響を与えるかを明らかにしていく。
2: おおむね順調に進展している
A.培養血管中膜細胞における鉄負荷による石灰化促進を確認できる実験系の確立 B. マイクロアレイを用いた鉄負荷による石灰化促進に関与する遺伝子の網羅的解明。マイクロアレイは 鉄負荷・TGFβとそれぞれ単独・共刺激を行い、さらに刺激後day 1とday3を行うことで、より確かなものを拾い出していく。 C. マイクロアレイで確認された細胞内シグナルの遺伝子レベルあるいはタンパクレベルでの確認。これにより鉄負荷による石灰化促進のメカニズムを明らかにしていく。D. 鉄負荷で石灰化促進にかかわる細胞内シグナルをsi-RNAや抗体を用いてブロックすることで石灰化抑制が可能かどうかを検討していく。 E. 鉄負荷による石灰化促進にかかわるメカニズムを抑制することで動脈硬化、あるいは血管の石灰化を抑制する新規薬剤の開発が計画であるが、マイクロアレイでの遺伝子変化を再確認できており、またタンパクレベルでも検証でき、ほぼ予定通り進んでいる
A.培養血管中膜細胞における鉄負荷による石灰化促進を確認できる実験系の確立 B. マイクロアレイを用いた鉄負荷による石灰化促進に関与する遺伝子の網羅的解明。マイクロアレイは 鉄負荷・TGFβとそれぞれ単独・共刺激を行い、さらに刺激後day 1とday3を行うことで、より確かなものを拾い出していく。 C. マイクロアレイで確認された細胞内シグナルの遺伝子レベルあるいはタンパクレベルでの確認。これにより鉄負荷による石灰化促進のメカニズムを明らかにしていく。D. 鉄負荷で石灰化促進にかかわる細胞内シグナルをsi-RNAや抗体を用いてブロックすることで石灰化抑制が可能かどうかを検討していく。 E. 鉄負荷による石灰化促進にかかわるメカニズムを抑制することで動脈硬化、あるいは血管の石灰化を抑制する新規薬剤の開発が計画であるが、さらにこの遺伝子産物を鉄の代わりに投与して動脈硬化が惹起出来るかどうかを確認する。また、これの中和抗体を使用し、動脈硬化を抑制できるかを検討を進めていく
研究は、概ね順調に進み、今年度の後半は主として論文執筆を行い、投稿後の査読の過程で実験系であるため追加実験が必要となる可能性が強く、予算を一部次年度に残すこととした。
現在、本実験系に使用している動脈の血管内皮細胞をほぼすべて使用したため、まず血管内皮細胞を購入して石灰化を惹起できる条件設定などを行っていき、追加実験を求められた場合は、これを使用して行う予定である。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
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