進行性核上性麻痺(PSP)は孤発性疾患であるが、まれに家系内に複数の発症者をみた家系も報告されている。われわれは、認知症とパーキンソン症状を主な症状とし臨床的に進行性核上性麻痺と診断し、病理学的に海馬、淡蒼球、視床下核、黒質の神経変性を伴い、3リピートと4リピートのタウ蛋白の蓄積を伴う家族性神経変性疾患があることを見出した。この家族歴のある患者を対象に過去にPSPの原因遺伝子として報告されている遺伝子やパーキンソン病や認知症の原因遺伝子などを含む50遺伝子を候補遺伝子として解析したが、それらの遺伝子には原因となる変異を認めなかった。そこでさらに、全エクソーム解析および連鎖解析を実施し、bassoon(BSN)遺伝子に発症者特異的にミスセンス変異が存在することを見出した。bassoon蛋白は神経終末アクティブゾーンに存在する巨大蛋白質である。さらに孤発PSP患者 41名を対象に解析したところ、4名の患者において3種類のミスセンス変異が認められた。これらの遺伝子変化は健常者データベースには記載が無いか、あっても0.5%以下のまれな変化であった。次いで、遺伝子変化を導入した変異型ラットBSN遺伝子と野生型ラットBSN遺伝子を導入したHEK293T細胞でタウ蛋白を比較検討すると、遺伝子変化を導入した細胞で不溶性のタウ蛋白が多く存在することが見出され、この遺伝子変化により不溶性のタウ蛋白が蓄積することが確認された。この結果を踏まえて、現在この遺伝子変化のPSP病態への関与について共同研究が進捗中である。
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