研究課題/領域番号 |
16K09664
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
玉岡 晃 筑波大学, 医学医療系, 教授 (50192183)
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研究分担者 |
冨所 康志 筑波大学, 医学医療系, 講師 (80447250)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アルツハイマー病 / アミロイドβ蛋白 / ミトコンドリア / α-セクレターゼ / β-セクレターゼ / γ-セクレターゼ / BACE1 / APP |
研究実績の概要 |
アルツハイマー病(AD)の病態にはミトコンドリア機能障害が関与している可能性があり、本研究では、ADの病因関連物質であるアミロイドβ蛋白(Aβ)とミトコンドリアとの関係を解析した。まず、Aβがその前駆体(APP)より産生される部位に、ミトコンドリアが含まれるか否かを検討した。ヒト神経芽腫細胞由来のSH-SY5Y細胞やスウェーデン型のAPP変異を発現したSH-SY5Y細胞を用いて、ウェスタンブロットによりAPP、APP切断するα-、β-、γ-セクレターゼ、APPの分解産物の発現パターンを調べたところ、APP、BACE1(β-セクレターゼ)、PEN-2(γ-セクレターゼの構成成分)はミクロソーム画分より粗ミトコンドリア画分において有意に減少していた。一方、ADAM-10(α-セクレターゼ)、presenilin 1、nicastrin、APH-1(γ-セクレターゼの成分)は両画分で同様に認められた。粗ミトコンドリア画分はライソゾームのマーカーであるcathepsin Dをかなり含んでいたため、iodixanolを用いた密度勾配法により更に精製し、ミトコンドリアとライソゾーム画分に分離した。成熟型APP、BACE1、γセクレターゼ複合体の構成成分(特にpresenilin 1とPEN-2)は、ライソゾーム画分に比べてミトコンドリア画分にはほとんど検出できなかった。また、BACE1により切断されたAPPのC末端断片であるβ-CTFはミトコンドリア画分で著明に減少していた。更に免疫組織学的検討を加えたところ、presenilin 1とミトコンドリアのマーカーであるTom20とのco-localizationはほとんど認められなかった。以上の知見、即ち、ミトコンドリア画分においてBACE1、γセクレターゼ複合体、β-CTFがわずかしか認められなかったことにより、APPよりのAβの産生は、ミトコンドリアにおいては生じていないものと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アルツハイマー病(AD)の病態において、アミロイドβタンパク質(Aβ)の蓄積が神経変性を来す中心的要因と考えられており、その機序の一つとしてミトコンドリアの機能障害を介する神経毒性が示唆されているため、本研究では、培養細胞を用いてAβやアミロイド前駆体タンパク質(APP)、各種セクレターゼをウェスタンブロットにより詳細に検討した。ミトコンドリアにおけるAβの産生が証明されれば、ADにおけるミトコンドリアのAβ産生能やAPP代謝の変化を更に詳細に解析することが必要になるところであるが、結果としては否定的なものであり、ADにおけるミトコンドリアの機能障害はミトコンドリア外で産生されたAβの関与が示唆された。今後は、ADにおけるAβの神経毒性発揮機序について、ミトコンドリア以外の要素も含めて解析する必要が考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
アルツハイマー病(AD)の病態にはオートファジーの障害も関与していることが示唆されている。オートファジーの制御には多因子が関連しているが、中でもTranscription factor EB(TFEB)はオートファジー-リソソーム経路(Autophagy-lysosomal pathway : ALP)の遺伝子の発現を制御する転写因子であり、TFEBの発現はALPを誘導・促進する。しかし、TFEBによるALPの促進によって、Aβの産生とその過程が修飾されるかについては十分に解明されていない。そこで今後はTFEBを発現させた培養神経細胞を用いて、APPのプロセシングやそれに関わるプロテアーゼ、代謝産物などを解析し、TFEBがAβの産生過程に及ぼす影響とメカニズムについて検討していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定した学会に参加できなかったため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の消耗品として使用する予定である。
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