研究実績の概要 |
本研究は、発症頻度が高くQOLを低下させる神経疾患・本態性振戦の主たる症状である振戦の分子メカニズムを解明することを目的として、本態性振戦の疾患関連遺伝子であるTeneurin-4(Ten-4)に着目し、その分子メカニズム解明を目指した。これまでにTen-4結合タンパク質として、4種類存在するTeneurinファミリー(Ten-1~-4)に注目し、Ten-1~-4の過剰発現細胞やTen-1~-4の細胞外ドメインの組換えタンパク質(rTenECD)を用いた実験から、 Ten-4は、Teneurinファミリーとのホモリフィックまたはヘテロフィリックな結合を介したオリゴデンドサイト接着活性を有することを証明した。さらに、その接着活性がどのような生物活性に影響を及ぼすかを調べ、神経軸索を模したナノファイバー上にrTenECDをコートし、オリゴデンドロサイトによる髄鞘様構造の形成能を評価した。その結果、すべてのrTenECDで髄鞘形成能が見られたが、特にrTen-4ECDをコートしたナノファイバー上で、分化したオリゴデンドロサイトの増加が見られ、更に髄鞘形成に必須の分子であるSrcキナーゼFynを介した髄鞘タンパク質合成を促進していることが明らかとなった。加えて、Ten-4欠損マウスでは、オリゴデンドロサイトと軸索との細胞接着が阻害されることで、オリゴデンドロサイトの分化や生存に障害が生じることが明らかとなった。これらの結果や関連分野の知見を、数報の原著論文や総説にまとめて報告した(Hayashi and Suzuki, Seikagaku, 2019; Hayashi and Suzuki, Adv Exp Med Biol, 2019; Suzuki et al, Sci Rep, 2019; Hayashi et al, Biochem Biophys Res Commun, 2020; Hayashi et al, Sci Rep, 2020)。また、北米神経科学会、欧州グリア細胞学会、日本神経化学会、日本分子生物学会等にて成果発表するに至った。これらの結果より、Ten-4の分子機能の一端が明らかとなり、髄鞘形成が関連する振戦のメカニズム解明に繋がるものと期待される。
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