研究課題
環境毒ロテノン暴露により中脳ドパミン(DA)神経細胞が選択的に障害される条件下でアストロサイトが部位特異的に発現変化する分子を探索した.15日齢SDラット胎仔の中脳・線条体からの初代培養アストロサイトにロテノン(1-5 nM)を48時間添加し,アストロサイト培養上清を回収し,メタロチオネイン(MT)のELISAを行った.その結果,線条体アストロサイトではロテノン曝露による培養上清中のMT量に変化はみられなかったが,中脳アストロサイトではロテノン曝露により有意なMT量の減少がみとめられた.この結果より,中脳アストロサイトではロテノン曝露により抗酸化分子放出が低下していることが示唆された.また,中脳アストロサイトがもたらすロテノンのDA神経障害へのDAの関与を検討した.中脳神経細胞にα-methyl-p-tyrosine(AMPT)を添加し,DA神経細胞内のDA量を低下させておいて,ロテノン曝露した中脳アストロサイトの培養液(Rot-GCM)を48時間添加し,チロシン水酸化酵素(TH)陽性細胞数をカウントした.その結果,Rot-GCM添加によるTH陽性細胞数の有意な減少はAMPT処置によりほぼ完全にキャンセルされた.さらに,ロテノン曝露した中脳神経細胞において,GABA含有神経細胞,セロトニン含有神経細胞についてそれぞれ神経障害性を検討したが,いずれの神経細胞も生存率に影響はみられなかった.以上の結果より,ロテノン曝露による中脳アストロサイトを介した神経障害はDA神経特異的であり,またその神経障害にはDAが関与することがわかった.
1: 当初の計画以上に進展している
ロテノン曝露によるアストロサイトの部位特異的な機能異常について検討した結果,強力な抗酸化能を有するメタロチオネインの有意な低下がみとめられ,ドパミン神経障害をもたらす部位特異的分子として同定できた.さらに,ロテノン曝露による中脳アストロサイトを介したドパミン神経障害に細胞内ドパミンが関与することが明らかとなった.これらの結果を踏まえ,次年度は腸管神経細胞を用いた実験を発展させることができる.
今年度選定した部位特異的な神経障害の差異を規定しうる因子(メタロチオネイン: MT)をsiRNAによるノックダウン等により発現低下させた線条体アストロサイトと中脳神経細胞との共培養系を作製し,ロテノン添加によるドパミン神経障害について検討する.SDラット胎仔の腸管からの初代培養細胞を用いてロテノン神経毒性におけるMTの関与を検討する.また,ロテノン慢性皮下投与パーキンソン病モデルマウスを用いて,中枢および末梢のアストロサイト(様細胞)の部位特異的な抗酸化分子の発現変化を検討する.さらに,ロテノン慢性皮下投与マウスにMT発現を誘導する薬剤を投与し,中枢・末梢神経障害について検討する.
平成28年度は腸管を用いた初代培養実験ではなく,中脳および線条体を用いた初代培養細胞での詳細な検討を行ったため,それほど多くの妊娠ラットを必要としなかった.そのため,妊娠ラットに必要として計上していた経費の一部にあたる293,367円を次年度に使用することとなった.
次年度平成29年度の請求研究費とあわせて,培養実験,動物実験のための消耗品費として使用する予定である.
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