研究課題
封入体筋炎(IBM)は欧米では高齢者で最多の炎症性筋疾患であり、近年本邦でも患者数が急増している。本疾患はステロイドや免疫グロブリンに抵抗性を示し、患者のQOL低下を改善することが強く求められる。不明な点が多い本疾患の病態を明らかにし、新たな治療法の開発を目指す必要がある。本研究では、本患者の骨格筋にTDP-43が異常沈着することに着目し、1)骨格筋特異的TDP-43発現マウスを作製し、IBM患者と同様の筋病理学的変化や運動機能の低下が再現可能か評価し、2)本マウスの変性筋における発現蛋白を網羅的に解析し病態メカニズムを解明する。さらに、3)本マウスに抗マウスインターロイキン6(IL-6)受容体抗体を投与し、運動機能および筋病理学的変化に及ぼす影響を評価した。クレアチンキナーゼ(CK)8プロモーター下に野生型TDP-43を発現するトランスジェニックマウスでは、血清中のASTやLD、CKなどの筋原性酵素の上昇を認め、筋線維の大小不同や空胞変性、TDP-43の筋線維内凝集などの筋病理学的変化が見られた。変性筋線維をレーザーマイクロダイセクションにより摘出し、抽出蛋白をLC-MS/MSによりプロテオミクス解析を行ったところ、ミスフォールディング蛋白を認識するシャペロンや小胞体関連分子の発現上昇を見いだした。本マウス骨格筋を用いた免疫染色では、小胞体シャペロンとTDP-43が共局在を示し、小胞体関連アポトーシスに関わる分子の発現を認めた。IBMでは異常蛋白凝集に加えて、IL-6などの炎症所見が関与することから、本マウスに抗IL-6受容体抗体を投与したが、運動機能や病理学的所見に改善は見られなかった。筋形質内のTDP-43凝集は、炎症所見と無関係に小胞体ストレスを介して筋変性をもたらすことが明らかとなった。本マウスは、IBMの変性性の病態の解明に有用なモデルとなることが期待される。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度の研究を通じて、新たな封入体筋炎のモデルマウスを確立することが可能となった。本モデルマウスでは、筋病理学的に炎症細胞浸潤はみられず、またIL-6受容体に対するモノクローナル抗体を投与しても、運動機能や病理学的変化の改善を認めなかったことから、TDP-43による筋線維内凝集は炎症性機転と無関係に筋変性をもたらすことが明らかとなった。すなわち本疾患の治療法探索に関しては、筋線維内凝集蛋白のコントロールがターゲットとなる可能性が示された点で、我々の知見はきわめて有用と考える。
IBMでは小胞体ストレスの関与とともに、ミトコンドリア障害も病態メカニズムの一つであることが報告されている。我々が新たに確立したIBMモデルマウスにおいて、ミトコンドリア機能障害の関与の有無を明らかにする予定である。さらに本マウス由来の筋芽細胞培養系を構築し、筋線維内のTDP-43凝集形成を抑制しうる低分子化合物をスクリーニングすることによって、TDP-43プロテイノパチーの新規治療薬を探索する。そのためには効率よく筋線維内にTDP-43凝集体を形成し、定量可能なin vitro評価システムを構築することが重要である。最終的には本マウスを用い、新規治療薬として可能性のある薬剤を同定し有効性を検証し、特許を申請する予定である。
次年度以降本マウス由来の筋芽細胞培養系を構築し、筋線維内のTDP-43凝集形成を抑制しうる低分子化合物をスクリーニングする予定であり、効率のよいin vitro評価システムの構築に当初の計画以上の経費が必要となる見込みであることから、平成28年度の物品費を節約したため。
本マウス由来の筋芽細胞培養系を構築し、筋線維内のTDP-43凝集形成を抑制しうる低分子化合物のスクリーニング可能とする、効率のよいin vitro評価システムを構築する予定である。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 9件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件)
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