研究課題/領域番号 |
16K09674
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
山下 賢 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 准教授 (20457592)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 封入体筋炎 / TDP-43 / ミトコンドリア |
研究実績の概要 |
孤発性封入体筋炎(Sporadic inclusion body myositis: sIBM)は、欧米では50歳以上の高齢者でもっとも頻度の高い炎症性筋疾患の一つである。本疾患は、炎症性筋疾患に分類されると同時に筋変性疾患の性質も有しており、アルツハイマー病や筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの各種神経変性疾患と共通する病態の関与が予想される。本研究では、本患者の骨格筋形質内にTDP-43が異常沈着することに着目し、骨格筋特異的TDP-43発現マウスを作製し、sIBM患者に類似の筋病理学的変化や運動機能の低下の有無を評価するとともに、本マウスの筋変性の病態メカニズムを解明することを目的とする。H28年度までに明らかにしたこととして、クレアチンキナーゼ(CK)8プロモーター下に野生型TDP-43を発現するトランスジェニックマウスでは、血清中のASTやLD、CKなどの筋逸脱酵素の上昇と、筋線維の大小不同、TDP-43の筋線維内凝集、Tubular aggregateなどの筋病理学的変化を認めた。また変性筋線維をレーザーマイクロダイセクションにより摘出し、LC-MS/MSを用いた網羅的解析を行うと、カルシウム恒常性を制御するSR/ER局在蛋白とともにCytosolic 5'-nucleotidase 1Aが高頻度に検出された。H29年度は電子顕微鏡を用いて本マウスの変性筋の微細構造を評価するとともに、骨格筋内のTDP-43の局在を検討した。電子顕微鏡所見として、変性筋内に異常な自己貪食空胞と傷害されたミトコンドリアを認めた。また変性筋からミトコンドリアを抽出しProteinase Kによる消化を行うと、断片化したTDP-43はミトコンドリア外膜蛋白よりも高濃度のProteinase Kにより消化されたことより、断片化TDP-43はミトコンドリア内に局在する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
sIBMの筋病理変化として、縁取り空胞と非壊死線維内部や周囲に浸潤する炎症細胞が特徴的である。我々の作製した骨格筋特異的TDP-43発現マウスでは、これらのsIBMに特徴的な病理変化は見出せなかった。しかし一方でTDP-43を骨格筋内に過剰発現することで、カルシウムの恒常性が破綻し筋変性をもたらすことから、骨格筋内のTDP-43凝集が一次的に筋毒性を発揮することを明らかにした。またプロテオミクス解析において増加していたNT5C1Aは、近年sIBM患者血清中に見出されている自己抗体の標的蛋白であり、TDP-43とNT5C1Aは相互作用を示し、何らかの機序で抗原提示される可能性が示された。さらに断片化したTDP-43はミトコンドリア内部に局在することから、ミトコンドリア機能障害が本マウスにおける筋変性に関与することも示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
今後、本マウス由来の筋芽細胞培養系を構築し、筋線維内のTDP-43の凝集形成を抑制しうる低分子化合物をスクリーニングすることによって、TDP-43プロテイノパチーの新規治療薬を探索する予定である。そのために効率よく筋線維内のTDP-43凝集を定量可能なin vitro評価システムを構築する必要がある。最終的には候補薬剤を本マウスに投与することで、筋変性に対する有効性を検証し、臨床試験へと展開することを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
【理由】 H30年度に本マウス由来の筋芽細胞培養系を構築し、筋線維内のTDP-43の凝集形成を抑制しうる低分子化合物をスクリーニングする予定であり、効率の良いin vitro評価システムの構築に当初の計画以上の経費が必要となる見込みであることから、H29年度の経費を節約したため。 【使用計画】 本マウス由来の筋芽細胞培養系を構築し、筋線維内のTDP-43の凝集形成を抑制しうる低分子化合物をスクリーニングを可能とする、効率の良いin vitro評価システムを構築する予定である。
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