研究課題
パーキンソン病におけるCoiled-coil-helix coiled-coil-helix domain containing 2 (CHCHD2) 遺伝子変異の病態生理を明らかにするために、CRISPE/Cas9システムをもちいてヒト神経芽細胞種培養細胞株のSH-SY5Y細胞のCHCHD2ノックアウト細胞を作製し、種々の解析を行った。CHCHD2変異陽性パーキンソン病患者から樹立したiPS細胞とiPS細胞から分化させた神経細胞 (以下iPS-Nu細胞) についてCHCHD2の発現量を解析した。CHCHD2 T61I変異陽性パーキンソン病患者皮膚から樹立したiPS細胞とiPS-Nu細胞についてRT-qPCR法およびウエスタンブロット法でCHCHD2の発現を検討した結果、コントロールiPS細胞およびコントロールiPS-Nu細胞ではCHCHD2の発現が確認されたが、CHCHD2 T61I変異をもつパーキンソン病患者iPS細胞およびiPS-Nu細胞ではmRNAレベルおよびタンパクレベルでCHCHD2は発現していないことが明らかになった。CHCHD2変異を原因とする家族性パーキンソン病は優性遺伝性であるので、野生型のアレルが1コピー存在するにも関わらず機能喪失型の病態を呈する可能性が高い。CHCHD2の機能喪失によってどのような細胞内外の変化が生じるか検討するためにCHCHD2-KO SH-SY5Y細胞をもちいてメタボロミクス解析を実施した。その結果、KO細胞においてATPの減少および乳酸の増加、TCAサイクルの異常やウレアサイクルの異常などを見出した。CHCHD2の発現を抑制すると複合体IVの機能低下が生じることが報告されており、メタボロミクス解析におけるKO細胞の表現型は複合体IVの機能低下を反映していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本年度の研究費の大半は外注によるメタボロミクス解析の実施で消費したため、当初初年度に計画していたCHCHD2と結合する分子の解析に着手することができなかった。しかしながら、最終年度に計画していたCHCHD2変異陽性パーキンソン病患者から樹立したiPS細胞の解析を前倒しして着手することができ、その成果からCHCHD2変異の病態は優性遺伝性パーキンソン病であるにも関わらず機能喪失型であることが明らかになった。したがって今後本研究で作製したCHCHD2-KO SH-SY5Y細胞を詳細に解析することでCHCHD2変異パーキンソン病の病態を解明可能なことが示唆された。メタボロミクス解析では多くの知見を同時に得ることができるため、個々の現象についての検証に時間を要したが、メタボロミクス解析の結果は総じてCHCHD2遺伝子欠損による複合体IVの機能低下に起因することが示唆され、CHCHD2変異の病態生理は複合体IVとCHCHD2の関連を詳細に解析することで解明可能であると考えられた。上記理由から、研究計画の前後はあるものの、CHCHD2遺伝子変異によるパーキンソン病病態解明モデル開発という本研究課題の目的を達成するための解析および成果についての進捗はおおむね順調に進展していると考えられる。
本年度のiPS細胞とiPS-Nu細胞の解析成果からCHCHD2変異は機能喪失型の病態を呈することが明らかになったが、なぜ野生型のアレルが1コピー存在するにも関わらずCHCHD2は発現しないのか不明である。これを明らかにするため、CHCHD2変異陽性患者皮膚から樹立したiPS細胞およびCHCHD2変異陽性患者の凍結脳からゲノムDNAを抽出し、CHCHD2遺伝子近傍のCpGアイランドをバイサルファイトシーケンスしてDNAのメチル化状態に違いがないか検証する。CHCHD2発現量は異なる細胞種や個々人でばらつきがあり、その発現量に依存してiPS細胞から神経細胞への分化効率がことなるという報告もあることから、CHCHD2遺伝子の発現量の調節がパーキンソン病の新規治療薬の開発につながる可能性がある。したがって、CHCHD2変異陽性患者のDNAメチル化解析に加え、孤発性パーキンソン病患者凍結能においてもDNAメチル化解析を実施し、それぞれの病歴とDNAのメチル化状態を比較することで新規診断マーカーや新規治療薬の開発に寄与するか否かを検討する。当初計画していたパーキンソン病患者から同定された変異CHCHD2を導入した細胞モデルについては機能喪失型変異であることがiPS細胞の解析から明らかになったため行わず、CHCHD2-KO SH-SY5Y細胞およびCHCHD2変異陽性患者皮膚から樹立したiPS細胞を研究対象とし解析を進める。メタボローム解析から得られた知見を引き続き詳細に解析し、個々の現象について質量分析法などをもちいて検証する。
研究に使用する試薬(抗体)の納期遅延のため年度内に納品出来ない可能性がでたため、代理店と交渉し他メーカ-から発売されている同等の抗体に発注を切り替えた。その差額が次年度使用額である。
研究に使用する合成プライマーや、安価な試薬等の購入に充てる計画である。
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
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