研究課題
昨年度までの研究結果からCHCHD2変異陽性パーキンソン病患者から樹立したiPS細胞やそのiPS細胞から分化させたドーパミン神経細胞はCHCHD2の発現量が著しく低下していることが明らかになっている。そこで本年度はiPS細胞におけるCHCHD2発現に注目して検討した。iPS細胞からドーパミン神経細胞に分化誘導する各段階でのCHCHD2発現量をウエスタンブロット法とqPCR法で解析したところ、未分化状態のiPSではCHCHD2の発現は非常に低く、神経前駆細胞であるニューロスフィアでは高発現、ドーパミン神経細胞では中等度発現することが明らかとなった。いずれの段階でもCHCHD2変異陽性患者由来細胞はCHCHD2の発現がほとんど無かった。一方SH-SY5Y細胞はレチノイン酸処理によって成熟ニューロン様の神経細胞に分化することが知られている。SH-SY5Y細胞とSH-SY5Y CHCHD2ノックアウト細胞へレチノイン酸を添加し分化の進行度を各種神経マーカータンパク質についてウエスタンブロット法で観察した。その結果、SH-SY5Y細胞は成熟神経細胞マーカーであるSynaptophysinが高発現しており、レチノイン酸処理によって成熟ニューロン様の神経細胞に分化したことが確認された。一方CHCHD2ノックアウト細胞はSynaptophysinの発現がほとんど無く、レチノイン酸処理によって成熟ニューロン様の神経細胞に分化できないことが明らかとなった。また本年度はCRISPE/Cas9システムによってCHCHD2ノックアウト細胞を新たに1ライン作成した。これによってこれまでCHCHD2ノックアウト細胞で得られた知見の再現性を確認することが可能となった。
2: おおむね順調に進展している
本年度はCHCHD2変異による病態機能解析として神経分化とCHCHD2発現量の関係をiPS細胞と培養細胞モデルを使って詳細に解析することができた。CHCHD2が高発現している幹細胞は神経細胞に分化しやすいという報告もあり、これを裏付ける結果を得ることができた。さらに成熟した神経細胞よりも未熟な神経細胞でCHCHD2が高発現しているという新たな知見を得ることができた。この表現系を指標に各種薬剤スクリーニングなどが可能となった。しかしながら、CHCHD2に変異があるとなぜCHCHD2の発現低下を引き起こすかという問題については昨年度の報告書に記載した計画どおり、iPS細胞から分化させたドーパミン神経細胞からゲノムDNAを抽出しバイサルファイトシーケンス法によるメチル化解析を実施したが、実験条件の設定を完了できず、実際の解析に着手できなかった。その一方で、CRISPE/Cas9システムによってCHCHD2ノックアウト細胞を新たに1ライン作成でき、CHCHD2ノックアウト細胞の表現型について再現性を確認しつつ推進することが可能となったことは大きな成果である。以上の理由から計画通りに進んでいない課題もあるものの、全体としては概ね順調に進展していると考えられる。
今年度完了できなかったCHCHD2変異細胞のDNAメチル化解析を進める。DNAをバイサルファイト処理すると著しくDNAの品質が低下すること、さらにメチル化領域はGCリッチなことからPCRによる増幅が非常に困難であるため今年度は実験条件の設定を完了することができなかった。そこで各メーカーから発売されている各種メチル化解析キットや方法などを再検討し、メチル化解析の計画を進める。それでも条件設定が困難だった場合は次世代シークエンサーを使ったメチル化シーケンスの実施も検討する。今年度新たに1ライン作成したCHCHD2ノックアウト細胞について、これまで得られているCHCHD2ノックアウト細胞の表現型を検証する。具体的にはミトコンドリア機能に関するATP合成能、ミトコンドリア呼吸量、電子伝達系の酵素複合体活性測定などの各種解析を実施する。またCHCHD2発現を調節する薬剤スクリーニングをiPS細胞を使って開始する。96穴プレートに播種したiPS細胞から分化させたドーパミン神経細胞に候補薬剤を添加し、CHCHD2タンパクを蛍光免疫染色することで発現量の評価を行う。以上の解析を実施することでCHCHD2変異によるパーキンソン病病態機能解析を進める。
(理由) 今年度実験条件を設定できなかったDNAメチル化解析に計上していた予算である。(使用計画) 来年度にDNAメチル化解析を引き続き実施の計画で、その解析ために必要な試薬、キット、PCRプライマー合成費等に使用する予定である。
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