研究課題
神経変性疾患パーキンソン病(PD)は、中脳黒質ドーパミン神経の変性・脱落を主徴とする。それに伴い脳内ドーパミン量が低下し、運動性障害(振戦、無動、筋固縮)や非運動性障害(睡眠障害や嗅覚機能の低下など)が生じる。PD原因遺伝子やリスク遺伝子には、細胞内の物質輸送に関わる遺伝子が複数含まれており、物質輸送の異常とPD発症の関連性が推察される。これまでに我々は、晩発性PD遺伝子LRRK2がRab GTPasesと協働し、エンドサイトーシス制御に関わることを示した。一方、LRRK2が神経細胞のシナプトジェネシス、シナプス小胞リサイクリングに関わることが報告されている。別の晩発性PD原因遺伝子Vps35は、レトロマー複合体のコンポーネントであり、小胞輸送に関わることが示唆されている。我々は、ショウジョウバエにおいてLRRK2とVps35との間に遺伝学的相互作用を見出しており、神経シナプスにおいてのVps35の役割が示唆された。Vps35の発現低下あるいはPD変異体の発現により、シナプス小胞のサイズや数に異常が生じた。また、それに伴い神経活動の異常が検出された。Vps35はシナプス小胞膜の回収(シナプスエンドサイトーシス)過程に関与し、Vps35変異による神経異常がLRRK2や関連するRab GTPaseの過剰発現によるシナプス小胞リサイクリングの促進で回復することを見出した。ショウジョウバエにおいて、Vps35活性の減少による神経機能の異常は睡眠行動の異常を引き起こし、LRRK2の過剰発現が行動レベルでも回復効果を持つことが明らかになった。これらの結果から、Vps35はLRRK2同様シナプス小胞リサイクリング過程を制御し、その異常が神経活動異常や行動異常の原因となること、シナプス小胞動態の慢性的な異常がドーパミン神経変性の原因の一つとなるとが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
研究は、順調に遂行できており、Vps35とLRRK2の相関については論文投稿を行い、現在印刷中である。また、Vps35と相関のある別の遺伝子候補も見つかっており、さらなる発展が期待できる。
既に、Vps35, LRRK2と相関のある遺伝子候補を電気生理学的手法から探索しており、候補遺伝子をいくつか絞っている。Vps35とLRRK2の相関を解析した手法、設備を利用することで、これら遺伝子間の遺伝的関連性を解析することで、パーキンソン病関連遺伝子のネットワーク作成が期待できる。候補遺伝子に関しては、既に過剰発現や発現抑制が可能なハエを入手しており、実験も進めている。電気生理学的手法でも、超微細構造の観察でもVps35ノックアウトの表現型を回復できる遺伝子が見つかっており、この遺伝子を中心に研究を進める予定である。
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Human Molecular Genetics
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