本研究では、筋萎縮性側索硬化症/前頭側頭型認知症(ALS/FTD)で高頻度に見られる遺伝子変異であるC9orf72のGGGGCCリピート伸長を対象とし、伸長したリピートから生じるジペプチドリピートタンパク質と結合するタンパク質に注目した。本研究では特に、別のリピート伸長疾患であるポリグルタミン病とも共通に関連し得るタンパク質に焦点を当てる。GGGGCCリピートに由来するジペプチドリピートタンパク質のうち顕著な凝集性を示すGAリピートに注目し、その細胞内凝集体に集積するタンパク質を探索した。生化学的なアプローチと候補タンパク質を用いたアプローチを併用し、GAリピートおよびポリグルタミン両者の新規結合タンパク質の候補が得られ、このうちMLF2に注目した。MLF2は過去にポリグルタミン病病態修飾因子として報告がある機能未知のタンパク質である。本研究開始後、MLF2がALS/FTD患者のGA凝集体に存在することが他のグループからも報告されている。マウスMlf2は通常核内に局在するが、GAリピートの細胞質凝集体が存在すると、核内から消失し、GAリピート凝集体と共局在した。Mlf2の欠失変異体を用いて、GAリピートおよびポリグルタミンとの凝集に関わる領域を明らかにした。また、免疫沈降と質量分析によりMlf2の結合タンパク質を同定した。この結合タンパク質も部分的にGAリピート凝集体と共局在を示し、Mlf2の発現抑制で局在の変化が見られた。両タンパク質をノックダウンした際の細胞生存への影響は、明瞭では無かった。マウスの脳においてMlf2は神経突起に分布が見られたが、ポリグルタミン病モデルマウスの脳において、Mlf2は封入体に局在し、神経突起への局在が減弱した。今後、新規MLF2結合タンパク質とMLF2の神経機能への関与を明らかにすることが重要であると考える。
|