研究課題/領域番号 |
16K09685
|
研究機関 | 藤田保健衛生大学 |
研究代表者 |
武藤 多津郎 藤田保健衛生大学, 医学部, 教授 (60190857)
|
研究分担者 |
朝倉 邦彦 藤田保健衛生大学, 医学部, 教授 (50333159) [辞退]
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | PD / AD / 神経栄養因子受容体 / 糖脂質 / αーシヌクレイン / タウ蛋白 / 脂質-蛋白相互作用 / 脂質ラフト |
研究実績の概要 |
これまでの当研究室で蓄積されてきた知見を考慮するとTrkのjuxtamembrane領域にGM1との結合部位が存在する事が想定されるため、Trkの同部位に様々なdeletion mutantを作成し、Trkを発現しないPC12細胞 (PCnnr) に変異cDNAを含むベクターをtransfectし、stable transformantを作成した。各々の変異cDNAを恒常的に発現するcell lineを放射性同位元素でwhole cell labelし、抗Trk抗体で免疫沈降 (IP)し、そのIP物より全脂質を抽出し薄層クロマトプレート (TLC)で展開、GM1を同定した (この方法はPNAS 1995で既に詳細報告済)。これらの検討により、結合部位を欠くTrkのリガンドに対する反応性は失われ、細胞内traffickingにも異常をきたすことを解明し(論文作成中)。現在、これら変異Trkのstable transformantより、脂質ラフトを既報の方法 (Glcyconj J 2000)で調整し、ラフトの脂質組成や他のシグナル伝達分子機能に及ぼす影響を明らかにしている所である。一方、SH-SY5Yを用いたalpha-synuclein (aーsyn)と糖脂質の関係、また変異tauを発現するstabletransformantの作成を試みる時間的・人的余裕が当該年度にはなく、次年度への繰り越しとなるなど若干の実験進行の遅れを認めている。 一方、PD,AD,ALS,MS患者試料中特に髄液での中性糖脂質などの脂質をLC-MS/MSを用いた高感度アッセイ法で測定する検討を始め,現在までの所PD、MS、ALSなどの神経疾患で新規脂質や糖脂質の異常とそれらが神経炎症に関連する免疫学的・生化学的機序の一部の解明に成功している。最終年度には、その全容を解明し新規治療法の開発に結びつけたい。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの進捗状況の区分を上記とした理由Trk蛋白のGM結合を欠くdeletion mutantの作成・評価に時間が要したのが、一番大きな理由であるが、本研究遂行中に報告された多発性硬化症(MS)や筋委縮性側索硬化症(ALS)などの患者及びPD患者に糖脂質特に本研究室が専門に取り組んでいる中性糖脂質代謝に大き な異常があり、しかも病因に大きく関わっている事実が報告された。そのため、これら疾患患者の特に脳脊髄液中でのこれら糖脂質代謝の異常を速やかに同定する必要性が生じたため、2年次以降に検討する予定であった患者試料中のこれら糖脂質の異常の検索を優先させることとしたため、細胞培養系の検討が遅れる結果となった。幸いLC-MS/MSを使用した高感度測定系で患者脳脊髄液中の糖脂質を測定できる系を作り上げる事が出来、種々の神経疾患(PD、ALS、MS、CIDP,EMRNなど)患者髄液・血液での解析が進んだ。こうした知見から、新規脂質やある種の糖脂質が神経炎症の引き金となっているデータを得ており、最終年度はこれらの全容を明らかにしたい。いずれにしろ、特に神経変性疾患では原因タンパクの蓄積ー細胞死という単純な図式では説明できない免疫系特にアストロサイト、ミクログリア、マクロファージといった免疫細胞とのクロストークの実態を解明しないと本質には迫れないという事実が明らかになった。
|
今後の研究の推進方策 |
上記にも記載したように、PD,MS,ALSなどの神経疾患には糖脂質代謝異常が存在しこうした異常が各々の原因蛋白の脂質による翻訳後修飾の異常に繋がっている可能性を強く示唆するものと考えており、本研究の完全な遂行がこれら神経疾患の新たな病因論を提供してくれると強く信じる根拠を与えてくれた。また、一方で免疫系とのクロストークの実態を解明することが出来なければ病気の真の理解は得られない事も判明したため、この点に関しても詳細な検討を加える予定である。最終年度は、こうした知見を元に細胞培養系でのa-synやtauに関する分子レベルでの検討を行いつつ、疾患患者試料での更なる検討を急ぎたいと考えている。また、prion-like propagationに関して、本申請書には記載しなかったがexosomeに関する検討も同時に実施する予定です。
|
次年度使用額が生じた理由 |
H29年度の申請書に述べたごとく研究体制の変化、技術補佐員の変更などの要因で、実験の進行が遅れた。又、LS-MS/MSの条件設定に時間がかかったのも理由の一つです。最終年度であるH30年には効率よいと実験を心がけ所定の解析結果が得られるように頑張りたい。
|