研究課題/領域番号 |
16K09688
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研究機関 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
荒木 亘 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 疾病研究第六部, 室長 (60311429)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 認知症 / アルツハイマー / βアミロイド / βセクレターゼ / シナプス |
研究実績の概要 |
アルツハイマー認知症(AD)の初期病態において、アミロイドβタンパク(Aβ)の集合体であるAβオリゴマーが神経・シナプス障害の病原的因子として重要視されている。しかし、Aβオリゴマーが神経・シナプス毒性を発現するメカニズムはまだ十分解明されていない。我々はこれまでに、AβオリゴマーがAβ生成プロテアーゼBACE1のタンパク発現を翻訳後メカニズムにより増強し、それがAβ生成の増悪要因となることを明らかにした。本研究では、Aβオリゴマーに起因するシナプス変性及びBACE1発現増強の分子メカニズムを解明することを主な目的とした。 これまでに樹立した初代培養神経細胞の実験モデル系を主に用いた。この系において、神経細胞をAβ42オリゴマーで2~3日間処理した場合、カスパーゼ3の活性化、タウの異常(リン酸化の亢進、分子内切断の増加)、βカテニンを含むシナプス関連タンパクの局在異常などが認められ、ADの病理的特徴を反映することが示唆された。2日間のAβオリゴマー処理後に、オリゴマーを細胞外から除いた状態で2日間培養した場合、これらの異常変化が明らかに回復した。この結果から、Aβオリゴマーは主に細胞外から作用を発揮しており、その神経細胞毒性は可逆的性質を持つことが強く示唆された。 Aβオリゴマーが神経細胞毒性を引き起こす作用起点に関しては、Wnt-βカテニン経路、代謝型グルタミン酸受容体などに着目した研究を行い、興味深い予備的知見が得られつつある。 AβオリゴマーによるBACE1発現異常の分子機序について、BACE1の輸送に関わるとの報告があるSnapinに着目し、両者の関係を調べたが、相互作用や直接的な関係を示唆するデータは得られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Aβオリゴマーの神経毒性作用の可逆性を示すことができたこと、Aβオリゴマーにより発現するシナプス関連タンパクの異常の解析が進み、その異常が発現する経路に関する研究も進行しつつあることから、研究全体の進捗はほぼ順調といえる。
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今後の研究の推進方策 |
Aβオリゴマーに起因するシナプス変性の分子メカニズムについては、初年度において得られた知見を基に、研究を進める。この研究が発展すれば、アルツハイマー病の治療法開発につながる可能性がある。また、AβオリゴマーによるBACE1発現異常の分子機序について、BACE1の輸送及び分解系の異常の観点からの探究を継続する。
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次年度使用額が生じた理由 |
残額が非常に少額で、適切な物品購入が困難なため、次年度に繰り越すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
消耗品費に充当する予定である。
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