アミロイドβタンパク質(Aβ)の可溶性集合体であるAβオリゴマー(AβO)はアルツハイマー病の病態の発動因子と考えられている。このAβOによって引き起こされるシナプス異常、及びAβ生成プロテアーゼBACE1の発現増強のメカニズムを中心に検討を行った。ラット初代培養神経細胞を比較的低濃度のAβ42オリゴマーで2日間処理後、細胞外からAβOを除去する実験において、神経細胞の特異的変化(アポトーシス、タウリン酸化、切断など)が回復したことから、AβOの神経毒性が可逆的性質を持つことが示唆された。AβO処理細胞では、前、または後シナプスの特異タンパク質Synapsin I、SNAP-25、Spinophilin、Homer1b/cの局在がシナプス様構造から細胞体、神経突起へと移行していたが、タンパク質の総量には変化がなかった。さらに、二重免疫染色により、AβOが神経突起の細胞表面に結合し、NMDA受容体GluN1、GluN2Bサブユニット、代謝形グルタミン酸受容体1と共存することが判明した。以上から、AβOとこれらの受容体との結合がシナプス障害の発端となることが示唆された.この実験系を用いて、AβO毒性を低減する天然由来物質の探索を行い、治療薬候補となりうる低分子化合物を同定した。AβOによるBACE1発現異常の分子機序に関連して、BACE1輸送に関与するとの報告があるsnapinや、BACE1との結合性が予備的に示唆されたタンパク質について、相互作用を調べたが、陽性所見が得られなかった。オートファジー・リソソーム経路の変動の観点から検討を進めたところ、オートファジーの制御因子であるTFEBを組換えアデノウイルスベクターを用いて過剰発現させた場合、BACE1の発現には影響しなかったが、Aβの産生プロセスに対して増加及び低下の2重の効果を与えることを見出した。
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